ポラリス

「お、北斗七星が見える……てことは、あれが北極星だな」

 雲一つない夜空に、キラキラと瞬いて今にもこぼれ落ちてきそうな満天の星。
 メリー号の甲板でタバコの煙をたなびかせ、月明かりに照らされ金色の髪を輝かせながらサンジが呟く。
「あ?北斗七星?北極星?」
「おまえなぁ……航海すんだからそれくらい知っとけよ。そんなんだから万年迷子なんだよ」
「うるせェグル眉。そもそもおれは迷子じゃねェ」
 甲板に座り込み酒を呷っていたゾロが反論する。
「おーおー、迷子の自覚がないとは困ったマリモちゃんだ」
「言ってろ」
「そんな困ったマリモちゃんに人間様が知恵を授けてあげよう」
 いいか、とゾロの横に腰を下ろし顔を覗き込みながらサンジが続ける。
 日中は海のような、空のような、澄んだ青をした瞳が、夜空の星を映して宝石のように煌めいている。
 こんな色も悪くない、とゾロは思う。
「北極星ってのは一年中ずっと真北で光ってるから、航海の大事な目印になる」
「あそこに柄杓の形した星座があるだろ?あれが北斗七星だ。柄杓の先端を延ばした先に北極星があるからな、これ覚えとけ」
「北極星のことを、ステラ・マリスとかナビガトリアって呼ぶこともある。ま、おれ達みたいな船乗りを導いてくれる女神様みたいな星ってこった」
 どこか楽しそうに話しながら、ふだん滅多に自分に向けることのない柔らかい笑顔を向けてくるものだから、ゾロは思わず金糸に手を伸ばした。無骨な指に似合わぬ優しい手つきで金糸をなでながら、ああこの色だ、と思う。
「北極星とやらも大事なんだろうがな、おれにはどこにいても目立つこのキンキラ頭が目印だ。迷うことはねェ。それに、万が一おれが迷ってもてめェが探しに来てくれんだろ?」
 ニヤリと笑ってそう言えば。
「っとにてめェは……時々臆面もなくとんでもねェこと言いやがる」
 頬を赤く染め不自然に目をそらしながら、おれ様はいつも迷子の回収に行くほど暇じゃねェよとかなんとかブツブツ不満をこぼす口を口で塞いでやる。

驚いたように見開かれた煌めく瞳、キラキラと輝く金色の髪。
 きれいなきれいな、おれだけの北極星。
 見失うことのないように腕の中にぎゅっと閉じ込め、ゾロは口付けを深めた。