salty & sweet sweat

 メリー号は春島海域を航行中だ。
 うららかな日差しにぽかぽか陽気、甲板を渡る風はさらりと心地よい。
 思わず歌い出したくなるような、春らしく爽やかな一日。それなのに——。
(あいつのせいで台無しだ)
 サンジは吸っていたタバコのフィルターをぎりりと噛むと、視線の先にいるゾロを睨みつけた。
 上半身裸になり巨大な串団子をひたすらに振り下ろしているゾロは汗まみれで、爽やかな空気に満ちた甲板の上、ゾロの周囲だけがまるで異次元のようだ。目を凝らしたら、体から立ちのぼる湯気が見えてくるような気がする。ついでにむわりと男臭い汗の匂いまで漂ってきたような気がして、サンジは盛大に顔を顰めた。
 あんなのは、視界に入らないようさっさと目を逸らすに限る。
 そう思うのに、サンジはゾロから目を逸らすことができなかった。
 正確には、「ゾロから」ではなく「ゾロの汗から」だ。
 ツツー、ツツーっと傷一つない背中のなめし革のような褐色の皮膚を流れ落ちていく汗を、眼球だけを動かして何度も何度も追ってしまう。
 それだけでも受け入れ難いことなのに、
(あの汗を、舐めてみたいと思うなんて……っ)
 自分は本気で気が触れてしまったのではないかと、サンジは頭を抱えたくなった。

 この船に乗って、初めてゾロが鍛錬をしているのを見た時はただむさ苦しいやつだなとしか思わなかった。流れ落ちる汗を見ても、汗臭くなるんだからちゃんと風呂入れよなと思っただけだ。
 なのに、どこで何を間違えた?
 そもそも、ゾロが後甲板で鍛錬するのが全ての元凶だ。
 そのせいで、一仕事終えてラウンジを出て一服する時に嫌でも目に入る。
 見たくないなら別の場所でタバコを吸えばいいじゃないかと言われるかもしれないが、それだけは断じて嫌だった。ゾロのせいで自分が譲らないといけないのはなんだか負けたような気になるし、そもそもあいつが別の場所で鍛錬すればいいだけの話だ。
 実際何度か「邪魔だから別のとこでやれ」と言ったこともあったが、忌々しいことに聞く耳なんか持ちやしなかった。
 それで、えーと。そうだ、あれは確か夏島海域を航行中の時だ。
 焦げつくような日差しを浴びながらタバコを吸っていたから、たぶん暑さにやられたんだと思う。日光を弾いてキラリと輝きながら流れ落ちたゾロの汗を見た時に、思ってしまった。
 あの汗、舐めたらどんな味がするんだろうって。
 今考えれば、汗なんてただしょっぱいだけに決まってる。
 けれど暑さで朦朧とする頭の中、旨そうだな、舐めてみてェな、という思いが写真を焼き付けるみたいにこびりついてしまった。
 一度焼き付いてしまった思いを消す術を持たず、さらには料理人として未知の味を知りたいという探究心に抗えず、ゾロの汗を舐めてみたいという思いは日増しに膨らんで、まるで変態みたいにゾロの汗を目で追ってしまうようになったというわけだ。

 

 *

 

 メリー号は夏島海域を航行中だ。
 ギラギラ照りつける太陽、茹だるような熱気、甲板を吹き抜ける風は熱を孕んでちっとも涼しくない。
 身につけているものを全部脱ぎ去って、海に飛び込みたくなるような一日。それなのに——。
「んナミっすわん、ロビンちゅわ〜ん!おれ特製のフローズンドリンクが出来上がったよ〜〜!!」
 目をハートにして竜巻のようにグルグルと回転しながら、パラソルの下で涼んでいるナミとロビンの元に向かうサンジをゾロは横目で眺める。
 さすが、というのも癪だが、あれだけ回転しながらもトレーの上のゴテゴテとデコレーションされたドリンクを一滴もこぼさないのには感心する。
(鬱陶しい野郎だ)
 このクソ暑いのに、大声で騒いで動き回って暑苦しいことこの上ない。
 しかも、芝居がかった仰々しさでナミとロビンに跪き特製フローズンドリンクとやらをサーブするコックは、黒いスラックスに長袖のシャツを肘まで折り曲げた、涼しいとは言えない格好だ。
(痩せ我慢か?折り曲げるくらいなら半袖着りゃあいいじゃねェか)
 そんなことを思いながら横目での観察を続けていたゾロは、あることに気がついた。
 真夏の暑さである今、ただ座っているだけでも汗が滲んでTシャツはじっとりと濡れている。ナミとロビンでさえ、わずかに汗が滲んでいるのか露出した肌が平素よりしっとりとしているように見える。
 それなのに。
 涼しいとはいえない格好をしたコックの肌はいつもと変わらずさらりとしていた。着ているシャツに汗が滲んでいる様子もない。
(汗かかねェのか?)
 この暑さで汗をかかないなんておかしい。
 もしかしたらたまたま今日汗をかいていないだけで、普段は汗をかくこともあるのかもしれない。
 それを確かめるために、この日以降ゾロはサンジの姿を目で追いかけるようになった。

 しばらく観察を続けても、ゾロはサンジが汗をかいているところを見ることができなかった。
 寒い冬島海域は汗をかかなくても当然として、自分と派手にケンカをしている時でさえ、コックは息を切らしこそすれ決して汗は流さない。襲いかかる敵との戦いを終えた後でも、澄ました顔でタバコを吸うコックの肌に汗が滲むことはなかった。
 汗をかかない人間なんているのか?それはもはや病気なんじゃないのか?
 そう思ってチョッパーに聞いてみたこともある。そうすると、確かに汗をかけない病気はあるが、熱を発散できないせいでうつ熱を起こして吐き気や頭痛やめまいがしたり、ひどいと意識を失ったりすることがある、そういう症状が何もないということは基本的にはないのだと教えてくれた。
 てことはなんだ、コックは病気なのか。でも、汗をかいてもおかしくないシチュエーションの後にそんな風にコックが具合悪そうにしているところなんて見たことがない。いくら頑丈なヤツとはいえ、病気なのに症状がないなんてことはあり得るのだろうか。
 そう思ったら、何が何でもコックに汗をかかせてみたくなった。
 夏島海域でもダメ、ケンカでもダメ、敵との戦闘でもダメ。
 それならいったいどうすればコックに汗をかかせることができるのか。
 お世辞にもあまりいいとは言えない頭で考えに考えて、とうとうゾロはあることを思いついたのだった。

 

 *

 

 波は穏やか、雲一つない晴れた月夜。暑くも寒くもない、過ごしやすい夜だった。今のところ敵の気配はなく、仲間はみんな寝静まっている。
 密かにあたため続けた計画を実行するなら今夜だ。
「うし!」
 両頬をぱしんと叩いて気合を入れると、空になった夜食の籠を持って見張り台から一気に飛び降り、暖かな明かりの漏れるキッチンへと向かった。
「おいコック」
 中に足を踏み入れると、コックは仕込みを終えたのかシンクを拭きあげているところだった。
 夜中の来訪者がおれだとわかった途端、一気に剣呑な目つきになる。
「おいクソマリモ、てめェ見張りはどうした。夜食はさっき届けてやっただろうが」
 いきなり喧嘩腰だ。いつもなら売られた喧嘩は即買うところだが、そんなことをすれば計画がおじゃんになってしまう可能性があるので今回ばかりはスルーを決め込む。
 おれは無言でコックの前まで歩み寄ると、空になった籠をずいと突き出した。
「な、なんだよ」
 いつもと様子の違うおれに戸惑ったのか、コックは半歩下がりながらも反射的に手を出して籠を受け取った。
「夜食は全部食った。おれはてめェに話がある」
「おまえがおれに……?いったい何だってんだ」
「ここじゃ話しにくい。場所を移す」
 それだけ言うと、おれは踵を返した。
「ちょ、おい!」
 コックが喚く声を後ろに聞きながら、外に出て扉を閉める。
 そこで一旦立ち止まって耳を澄ませると、「わざわざおれに話したいことって何だ?聞かれたくないこと……金貸してくれ、だったらナミさんだろうし、チンコが変な病気に……だったらチョッパーだろ。っていうかおれには絶対言わねェよな。はっ!ラブコックであるおれ様に改まって話すってことはもしかして恋バナか?マリモがついに恋!?……って絶対あり得ねええええ!」とコックが盛大に一人突っ込みをしているのが聞こえた。
 あまりにアホすぎて今すぐぶん殴りに行きたいところだが、グッと堪える。
 今殴ったら、こうやって我慢したのも全部水の泡だ。あの様子だと話の内容に興味津々のようだし、何より頼まれると手を貸さずにはいられない性質《タチ》だから乗ってくるはず。そう気を取り直して格納庫に向かって歩いていると、背後でキッチンの扉が開く音がした。
「おい、待てマリモ。どこ行くんだよ」
 寝ている仲間を起こさないようにか声を潜めて問いかけてくるのを無視し、格納庫の前まで来るとようやくおれは立ち止まった。
 すぐにコックも追いついてきて、おれの横で立ち止まる。
「おい!……って格納庫?」
「ああ」
「この中に何かいるのか?」
「そうじゃないが、確かめたいことがある」
「だから何をだって……うわっ」
 訝しげにおれの顔を覗き込んでくるコックの襟首を右手で掴み、左手で格納庫の扉を開けて中にコックを投げ込む。すぐさま自分も中に身を滑り込ませると、後ろ手にガチャリと扉を閉めた。

 

 *

 

 ——何でこんなことになってんだ。

 真夜中の格納庫。明かり取りの窓から差し込む月明かりに照らされた床の上。ゾロに仰向けに押し倒されておれはパニックに陥っていた。
 だいたい、ゾロがおれに話があるなんてこと自体からして不可解だったが、キッチンじゃ話せないとか格納庫で確かめたいことがあるとか訳のわからないことが続いて混乱していた。だから、突然襟首を掴まれても咄嗟に反応できなかった。
 蹴り飛ばしてやろうと思っても、時すでに遅し。
 足の上に乗り上げたゾロに両腕を押さえられ、反撃どころか身動きすらできない。
「クソッ!おいゾロ、てめェ何のつもりだ!どきやがれ!!」
「ちょっと待て、一旦落ち着け」
「これで落ち着いていられるかーーーっ!」
「じゃあそのままでいいから聞け」
「聞けば解放してくれんのかよ」
「状況による」
「んだよそれ!」
「ギャーギャーうるせェな。とにかく話を聞け」
 煩わしそうに舌打ちをするゾロに殺意を覚える。
 あっさりと押さえつけられているだけでも耐え難いのに、拘束から逃れるためにはこのバカの言いなりになって話を聞くしかなさそうだなんて。
 あまりの屈辱に奥歯をギリギリと噛み締め、せめてもの抵抗で思い切りゾロを睨みつけた。
「てめェ後で覚えてろよ」
 聞いてやるからとっとと話しやがれ、と吐き捨てるように言うと、ゾロの顔が満足そうに緩んだ。
「最初からそうやって大人しく聞きゃあいいのに」
 こいつ絶対コロス。それも一回じゃねェ、最低でも十一回は殺さないと気が済まねェ。おれが心の中でそう誓っているとも知らずに、ゾロはどこかのんびりした様子で続けた。
「前から気になってんだけどよ、てめェ、汗かくことあんのか?」

「…………はああ?」

 思わず間抜けな声が出た。
 は?今こいつなんて言った??真夜中に人のこと呼びつけて、押し倒して、押さえつけてまでしたい話が、汗???
 ダメだ、藻類の思考回路は理解できねェ。本体だけじゃ飽き足らず、思考まで極度の迷子かよ。
「おれはてめェと違って人間なんだ。汗かくに決まってんだろ」
 あまりの意味不明さにくらくらしながらも、つい反射で答えてしまう。
「でも、おれはてめェが汗かくとこを見たことがねェ」
 ゾロが納得いかないという顔をする。納得いかないのはおれの方だっつーの。
「たまたまてめェが見たことないだけだろ」
「いいや。クソ暑い夏島海域で暑苦しい格好してても汗ひとつかいてないだろ。ここのところずっと観察してたが、おれと喧嘩しても、敵と派手に戦っても、女相手にアホみたいにクルクル回ってても全然汗かかねえじゃねェか」
 あんぐりと口を開けておれはゾロを見た。
「なんだ?」
「お、おま、おまっ……なんでそんなにおれのこと見てんだよ!」
「あ?気になりゃ観察するのは当然だろう」
 もはやくらくらを通り越してぐわんぐわんしてきた。全くもって理解不能だ。ツッコミどころしかない。痛む頭を押さえながら、とりあえず根本的な疑問を口にした。
「それが、どうしてこの状況につながるんだ」
「ああ、セックスでもすりゃ流石に汗かくかと思ってよ」
 はい?今なんて?
 もはやどこから突っ込んでいいのか分からず言葉を失っているおれに構うことなく、ゾロはペラペラと話し続けた。
「でも、やらせろっつっても絶対素直にヤらせねェだろ?けどてめェはアホだから、ちと強引にでも気持ちよくしちまえばなし崩し的にヤれるかと」
 やらせるわけねェだろ!っていうかアホってなんだ、おれはアホじゃねェ!!だいたいなァ、強引にとかなし崩し的にとか言ってるが、それってつまりは強姦だぞ?そこんとこ分かってる??おん??
 そう喚き散らそうとした時、唐突に、稲妻みたいにピカリと閃いてしまった。
(これってチャンスなんじゃね……?)
 そう、最大のピンチではあるが、同時におれの密かな願望「ゾロの汗を舐めてみたい」を叶えるまたとないチャンスなのではないか。
 トレーニング中のゾロに汗を舐めさせてくれなんて言えばただの変態でしかないが、セックス中ならどさくさに紛れて汗を舐めても不自然じゃないんじゃね?
 失うものが大きすぎる気もしなくもないが、あれだ、利害の一致ってやつだ。たぶん。
 頭の中でそう結論づけると、おれは真っ直ぐにゾロを見上げた。
「いいぜ、てめェの計画に乗ってやる。来いよ」
 ちょいちょい、と立てた人差し指を曲げて挑発する。
「上等」
 ゾロはニィと笑うと、がばりと覆いかぶさってきた。

 

 

 脳まで筋肉のゴリラみたいなやつだ。どんな荒っぽい抱き方をされるのかと思いきや、意外にもゾロの抱き方は丁寧だった。いきなり突っ込んでくるなんてことはせず、舐めたり噛んだり、撫でたり摘んだり。体中、隅から隅まで弄られ高められ、体温の上がったおれの体はうっすらと滲んだ汗でしっとりと湿っていた。
 触っているんだから、ゾロもきっとおれが汗をかいていることに気づいている。
 こいつの目的は、おれが汗をかくのかどうか確認することなのだから、この時点で目的達成だ。だからもう結構とセックスを中断してもなんらおかしくない。なのに、そんな素振りは全くなくただいま絶賛おれの尻の穴を解し中だ。
 おれだって、もう目的は達成しただろうと蹴り飛ばして処女(?)喪失を回避することができるはずなのに、喘ぎ声を上げながらゾロにいいようにされている。
 なぜか。
 答えはシンプルだ。おれの目的がまだ達成していないからに他ならない。
 一方的におれの体を弄くり回しているゾロは、まだ汗の一滴もかいていない。

「うし、そろそろいいだろ」
 そう言うと、ゾロはようやくおれの尻の穴から指を引き抜いた。ほやんと緩んだそこに、熱くて固くてなんだかヌメっとしたものが押し付けられる。
「挿れんぞ」
「いちいち実況中継すんな。さっさとブチ込めよ」
 気恥ずかしさとほんの少しの怯えを隠して喧嘩腰で答えると、ゾロがぐいっと腰を押し進めた。

 い、いてェ…………!

 びっくりした。結構丁寧に解してくれたとは思うが、初めての挿入は死ぬほど痛かった。もしかして裂けちゃったりしてるんじゃないだろうか。限界を超えて開かされたケツ穴からはミシミシと音が聞こえてきそうだ。
 それもこれも、ゾロのチンコが規格外にデカいせいだ。風呂で見かけた時にとんでもねェなと思った記憶があるが、完全に臨戦態勢となった時のサイズは常軌を逸していた。だから、このおれともあろう男がほんのちょっぴりビビっちまったわけだが……。
 兎にも角にも痛すぎて、全身から汗の玉がぶわりと噴き出てきた。汗っていうか、冷や汗だろこれ。
 痛みを堪えつつ仰け反ってハッハッと浅く息を吐いていると、何かがぽたりと顎に落ちてきた。
「……?」
 何だろうと顎を下げると、ゾロの顔が目に入った。
 おれも痛いが、ゾロも痛いのだろう。苦しげな表情を浮かべるその顔には汗がびっしっりと浮き、ツーッと一筋流れては顎の先で雫をつくり、ぽたりと落下する。
 落下する途中、月の光を弾いて汗の雫はキラリと輝いた。

 ——舐めたい。

 抗い難い衝動が湧き上がる。
 それに突き動かされるように、痛みさえ忘れて、おれはゾロの首に腕を回すと一気に体を起こした。
「……!? おいっ」
 急に体勢を変えたからだろう。ゾロが焦ったような声を上げた途端、それまで引っかかって進まずにいたカリの部分がぐぷんと中に入り込み、一気に根本までおれの中に収まった。
「か、はっ!」
 あまりの衝撃に再び顔を仰け反らせながらも、舌を伸ばし、ゾロの顎に垂れる汗の滴を掠め取る。

(しょっぺェ)

「入ったぞ」
 嬉しそうな響きを含んだ声でゾロが言うのをどこか遠くに聞きながら、まず浮かんだのはそんな当たり前の感想だった。
 もう一度。もう一度舐めてみよう。
 最初はそろりと、それから徐々に激しく抜き差しを始めたゾロにしがみつき、口付けるふりをして肩に、胸に浮かんだ汗を舐める。
 と、ぐいと後ろ髪を掴まれて顔を上げさせられた。
「ん、だよ……っ」
 せっかく汗を舐めていたのに邪魔をされて睨みつけるおれとは対照的に、ゾロはそれはもう無邪気に笑った。
「なんだ、てめェもちゃんと汗かくんじゃねェか」
 べろり、と肉厚な舌で汗の玉が浮くおれのこめかみを舐め上げる。
「美味ェな。てめェの作るメシみたいに、どこもかしこも美味くてたまんねェ」
 それと、と柔らかく目を細めてゾロが続けた。
「口付けんなら、こっちにしとけ」
 ふにんと半開きのおれの口にゾロの唇が押しつけられる。すぐさま飛び出してきた舌がおれの唇を割って侵入し、おれの舌を絡め取った。負けじと舌を絡め、噛みつき、今度はゾロの口内に侵入する。涎でぐしゃぐしゃの口にどちらのともわからない汗が流れ込み、おれの敏感な味蕾を刺激する。

(やっぱりしょっぺェ……でも、同じくらい、甘ェ)

 塩気の後に残るのは、くらりと眩暈がするほどの、甘さ。
「そんなナリのくせに、てめェは甘ェ、な」
 甘いのはたぶん、汗だけじゃなくて——。
 ああ、こりゃクセになりそうだ、とどこか他人事のように思いながら、再びゾロの唇にかぶりついた。