飲み過ぎにはご用心

 ナミさんやゾロほどの酒豪とまではいかないが、おれだって酒はそれなりに強い。お子様トリオにはまず負けないだろう。
 ただ、飲み過ぎるとちょっとだけ困ったことになるのだ。
 それは、つまり——ムラムラして、キモチイイことをしたい欲望で頭の中がいっぱいになること。
 そんな訳で、今おれはキッチンの床に座り込んで必死に自分の分身を擦りあげている。

 

 *

 

 今日はでっかい海獣を仕留めて大量の肉が手に入ったので、夜は船長の一声で宴になった。お肉大好き船長のためにステーキにハンバーグ、唐揚げ、骨付き肉をオーブンで焼いたものとガッツリ系から、ナミさんとロビンちゃんのために海獣肉のしゃぶしゃぶとあっさり系まで、腕を振るってたくさんの料理を作り、その分みんな酒も進んだ。
 飲んで食べて、一人、また一人と甲板に突っ伏したり部屋に戻ったりで、起きているのは今夜の見張りであるゾロとサンジだけになった。日頃から何かと馬の合わないゾロは酒瓶を一本持って展望室へと上がって行ったので、元々酔いで良くなっていたサンジの機嫌がさらに上がる。
 サンジもかなり酔ってはいたが、上機嫌に鼻歌を歌いながら汚れた皿やグラスをまとめ、空になった酒瓶を集め、食べこぼしを掃除し甲板をきれいにしていく。甲板の片付けを終えると、集めた食器をキッチンへと運んだ。水につけて汚れを落ちやすくしたところで、はぁ……と熱を帯びた吐息がサンジの口から零れ出た。その顔はわずかに上気し、青い瞳は潤んでその輪郭を曖昧にしている。わずかに開いた口からは赤い舌が見え隠れし、その姿を見た者はもれなく劣情を掻き立てられるような、そんな扇情的な表情を浮かべ、シンクに背をつけずるずると床に座り込んだ。
「やべ……ムラムラする」
 酔いでまともに働かない頭の中に、淫らな欲が湧き上がる。
(今なら多分、誰も来ねェしちょっとだけ……)
 普段なら神聖なキッチンでこんなことはしない。でも、酔いと欲に侵された頭では自制心など無いに等しく、衝動に突き動かされるままにネクタイを緩め、ベルトを外しズボンの前を解放した。ピタリとした濃灰色のボクサーパンツからまだふにゃりとしたそれを取り出す。右手でそっと包み込むと、水仕事で冷えた手の冷たさにぞわりと鳥肌が立ったが、それすらも快感に変わっていく。
「んっ……は、」
 頭の中に、お気に入りのエロ本の中でも特にイチオシのレディの淫らな姿を思い浮かべ、ゆるゆると上下に手を動かす。弱い刺激にもどかしさを感じるが、擦る力はそのままにレディの更なる痴態を妄想すると、ふにゃふにゃだったソコが芯を持ち首をもたげた。それを合図に右手に力を込め、扱きを大きく速くしていく。
「う、ア、ア……っ!」
 ハァハァと弾む息の合間に湿った水音が混じり始める。
 溢れ出した先走りで滑りがよくなり、もたらされる更なる快感にサンジは夢中で手を動かした、
「あ…っん……んァッ、ア」
 グチュグチュと耳に響く卑猥な音にまるでセックスをしているかのような錯覚を起こし、手の中の自身が痛いくらいに張り詰める。
 今にもイキそうなくらい気持ちがいいのに、酔いのせいか待ち望んだ絶頂はしかし、いつまで経っても訪れなかった。
「はぁっ、ぅん……イキてェ、よぅ」
 半泣きになりながら、声を抑えることも忘れてただイクことだけを考え扱き続ける。
 ようやくあと少しでイケる、というところで突然キッチンへと向かってくる足音が聞こえ、ドアの前で立ち止まるとガチャリとドアノブを回した。想定外の闖入者に一瞬で声も動きもフリーズする。思わず息を詰めた弾みで自身を掴む右手にギュッと力が入り、それがダメ押しとなって気が狂いそうなほどに待ち望んでいた絶頂が唐突に訪れた。
「〜〜〜〜〜ッ!!」
 流石にここで声を出さないだけの理性は残っていた。必死に声を押し殺し、過ぎる快感に身を震わせて耐える。白濁がズボンや床に飛び散り染みを作ったが、そんなことを気にしている余裕はない。急いで自身をボクサーパンツの中に仕舞い込むと、なるべく音を立てないように身なりを整えた。
「コック?」
 ドアが開き発せられた声を聞いて小さく舌打ちをする。ゾロだ。こんな最悪のタイミングでやってきたのがナミさんとロビンちゃんじゃなかったのは救いだが、よりにもよってそれと同じくらい顔を合わせたくない男が来るなんて。
 気配に敏いあいつのことだ。いないフリをしてもきっとバレる。それならばさっさと追い出すに限ると、サンジは何食わぬ顔をして立ち上がった。

「なんだ、くそマリモ。酒か?」
「ああ。てめェはそんなところで何して——」
 サンジの方を向いたゾロの言葉が途中で途切れる。ギョッとしたその顔に、何かしくじったかと内心焦るが、ここはシラを切り通すしかない。
「ちょっと酔ったんで座ってただけだ」
 これ持ってさっさと見張りに戻れと、ラックから酒を一本取り出してゾロに放る。
「ふうん?」
 難なくキャッチすると、ゾロは思案げな顔をサンジに向けた。
 そしてなぜか、ドアではなくこちらに向かって歩いてきた。
(チッ、なんだってんだよ。さっさと出て行きやがれ)
 心の中で毒づきながら、イラつきを隠すことなくゾロに声をかける。
「んだよ、まだ何かあんのか?」
 その問いには答えず、間近まで迫ったゾロがクンと匂いを嗅ぐ。それから、サンジの後ろの床にスイと視線を走らせた。
 ゾロの視線の先にあるモノに思い当たり、一瞬で顔が朱に染まる。
 その様を見て、ゾロがフンと鼻で笑った。
「ヘェ……こんなところでマス掻いてやがったのか」
 ああ、こいつにバレるなんて最悪だ。
「悪ィかよ。おまえだってマスくらい掻くだろ」
「まあな。てめェはいつもこんな誰に見られるかもしれねェ場所でやってんのか?」
「違ェよ!ああもうしつけえな、酒は渡したんだからとっとと見張りに戻りやがれ!!」
 これでやっと一人になれるはずだった。
 なのにゾロはおれの耳に口を寄せると、あろうことかとんでもないことを囁いた。
「そういやおれも溜まってたんだ。ちょっと付き合えよ」
 何言ってんだ?こいつ。やっぱあれか、藻類だからこんな訳の分からない思考回路してんのか。冗談にしてもタチが悪い。
「ふざけんなよ……なんでおれが付き合わなきゃなんねーんだ!風呂でも展望室でも、どこでもいいから一人で勝手にやりやがれ!」
「てめェのその顔、クるんだよ」
「は?何言って——」
 突然、ガブリと耳に噛みつかれた。
「いっ……!ゾロ、やめっ」
 距離が近づいた拍子に股間に硬いものが押しつけられ、先程達したばかりのソコがぴくりと反応する。男、しかもゾロ相手に反応するなんて冗談じゃない。
「おい、いい加減にしないと蹴り飛ばすぞ」
 ドスの効いた声をあげると、ゾロは噛んでいた耳を解放し顔を上げた。
 しかし次の瞬間、視界が反転する。ゾロがおれを押し倒したのだ。床で強かに頭を打って低く呻き、起き上がろうとするが体の自由がきかない。ゾロが両足の上に乗り上げギリギリと肩を床に押し付けているせいだ。
「何やってんだこの野郎、さっさとどきやがれ!!」
 足さえ自由になればすぐさまキッチンの外まで蹴り飛ばしてやれるのに、それが叶わない苛立ちで喚き散らしながら必死にゾロの体を押す。しかし、日々アホみたいに鍛えられた鋼のような肉体はそれくらいの抵抗ではびくともしなかった。
「それはできねェなァ」
「アァ!?ふざけんじゃねえ……んあっ」
 またもや昂りを股間に擦り付けられ、あられもない声が飛び出した。服越しのもどかしい刺激だけで敏感なソコはゆるりと首をもたげ、体からわずかに力が抜ける。それでも、訳もわからずに好きにされてなるものかとまだ潤みを残した目で真っ直ぐにゾロを睨み上げた。
「たまんねェな、その
 その言葉を証明するかのように、押しつけられた剛直がまたグンと体積を増す。
「おい、おれは男だぞ。元々アホだとは思ってたが、ついに頭までイカれたか」
 こんなの正気の沙汰じゃない。だって、おれは男で、こいつとは仲間で。なのにこれは。
「こんなの……まるで強姦じゃねえか」
 仲間に対しては決してしないであろう行為。
 ああクソ、何傷ついてるんだおれは。
 気に食わなくても、サンジにとってゾロは仲間だった。でも、ゾロにとって自分は仲間ではないのだという事実を突きつけられ、胸の奥底がズクリと痛む。
 急速に色を失っていくサンジの顔を見て、ゾロがほんのわずか腕の力を緩めた。
「そんな顔すんな。付き合えとは言ったが、別に突っ込みたいと言ってる訳じゃねェ。抜き合いなら、てめェもソレをどうにかできるし悪い話じゃねェだろ?」
 そう言ってゾロはサンジの軽く膨らんだ股間にチラリと目を向けた。

 ——抜き合い?てっきり無理矢理ヤられるのかと思ったが、違うのか。

 そういえばバラティエで、航海中は船員クルーの男同士で欲求不満を解消し合うのはよくあることだと聞いたことがある。あれは抜き合うってことだったのだろうか。仲間内でよくあることなら、仲間と思われていないというのは自分の考えすぎだったのかもしれない。
 そう思ったら重苦しかった胸の痛みが和らいだ。
 現金なもので、勘違いかもしれないと思った途端に好奇心がむくむくと湧き上がってくる。
 わざわざ男同士で抜き合うってことは、きっと一人でするよりも気持ちいいに違いない。そんな期待に再び兆し始めていた雄が疼く。

 ——そうだ、これは利害の一致ってやつだ。

 あいつは抜きたいし、おれもコレをどうにかしたい。目的は同じだ。
 まだ酔いが残り薄靄がかかったような頭で、そんな都合のいいことを考える。ただ、素直にゾロの提案に乗るには僅かに残った理性が邪魔だった。

「確かに悪い話じゃねェ……が、素面じゃ無理だ。酔いが足りねェ」
「なるほど」
 言うが早いか、先ほど投げて寄越した酒瓶を歯で噛み開けて呷ると、ゾロがそのまま口付けてきた。舌でこじ開けられた隙間から、生ぬるい酒が流し込まれる。思わず反射で嚥下すると、度数の高い酒が喉を焼いた。
 何を、と文句を言う暇も与えられず、再び唇が降ってくる。
 何度そんなことを繰り返しただろう。サンジの青い瞳が酒ですっかり溶けきった頃、ぬるりと分厚いものが差し込まれた。柔らかな粘膜を余すことなく嬲り、歯列をなぞって舌に絡みついてくるソレはゾロの舌だ。
 間近に迫った、欲情の色を隠さない肉食獣のような瞳を直視できず目をつぶる。視覚が遮断されたことでより一層敏感になった口内の、特に敏感な上顎をざらりと舐め上げられて思わず
「ふ、んぅ」
 と鼻から抜けるような声が出た。
「なあ、もっと声、聞かせろ」
 同じ場所をもう一度舐め上げながら、ゾロが囁く。
 掠れた低音にまるで背骨を抜かれたかのように全身が弛緩するが、カラダの中心だけはゾロの舌が施す愛撫により硬度を増していく。
 いつの間にか理性の消え去った頭はこの先の快楽を渇望するばかりで、相手がゾロだということに最早なんの抵抗も感じなくなっていた。
「あ……ぞ、ろ」
 口内を蹂躙する舌に自らも舌を絡め、すっかり勃ち上がった自身をゾロのソレに押しつけつつ、サンジはうっすらと瞼を開く。
 その隙間からのぞく、ゆらゆらと潤んで滲む美しい青。
 常にその身に携えた三本刀を扱うような丁寧さで以って、ゾロはまだ半分閉じたサンジの瞼をそっと撫でた。
「目、見せろ。隠れてんのは勿体ねェ」
 言われるがままに瞼を持ち上げると、満足そうにゾロが目を細める。
 それから、もう十分かと呟くと緩んだネクタイを引き抜き、力任せにシャツの前をはだけた。釦が弾け飛び、白く滑らかな肌と両胸を彩る薄桃色の突起が露わになる。
「ハッ、どこもかしこもたまんねェ」
 言うなり首筋にしゃぶりつきながら乳首を摘み上げられ、サンジの体がびくりと跳ねる。
「ここ、感じんのか」
 ゾロは首筋から鎖骨へと舌で辿りながら、左手で色よい反応を返すその場所を転がして摘みつつ、右手でベルトごとズボンを力任せに引き下げた。下着にも手をかけようとした時、その濃灰色が膨らみに一致して色濃さを増しているのを目敏く見つけて舌舐めずりをする。
「そんなに気持ちいいかよ。それともてめェが感じやすいのか?」
「うるせェッ、ベラベラ喋ってないで早くしろ」
 酔っていても負けん気だけは失っていないようで、息を荒げながらも強い瞳でぎりりとゾロを睨み上げた。
「言われなくても、そんなに時間かけてやれそうにねェ、よ」
 言うが早いかサンジの下着を剥ぎ取り、自らも手早く下半身を露出させる。そして蜜を垂らして先をひくつかせるサンジのものと自身のものをまとめて握り込むと、上下に大きく扱き始めた。
 剣ダコで硬くなった掌の感触と、密着したゾロの溶けそうに熱い竿となめらかに擦れ合う感触とがもたらすこれまでに感じたことのない快感で一瞬で頭が焼き切れそうになる。
 止めどなく溢れ出す先走りでさらに滑りがよくなったそこから生み出される暴力的なまでの快感に、サンジは我を忘れて喘いだ。
「ひあ、あ、あ、あ、ダメだ、もうイクッ……!」
 喘ぎにあわせて扱く速度を上げると、グッとサンジの全身に力が入り、次の瞬間勢いよく白濁を噴き上げた。
 ゾロの顔にまで飛び散ったソレを、舌でぺろりと舐め取る。
「二回目の割に早かったな。悪いがおれはまだだ、てめェはそこに転がってるだけでいいからもう少し付き合え」
 眼下に横たわるサンジは全身を紅潮させ、焦点の合わない青い瞳はすっかり溶けきって壮絶な色気を放っている。その凄艶な様だけで十分抜けるというものだ。視線はサンジに釘付けにしたまま、追い上げをかけるべく自身を握り込んだゾロの手に、白く長い指が重なった。
「されっぱなしはフェアじゃねェ。おれにもやらせろ」
 まだぼんやりとしているものの、先ほどよりは少し焦点が定まった瞳がゾロを見上げる。酒と快楽でグズグズなはずなのに、とんだ負けん気だ。
「ああ、構わねェ」
 ゾロがそう答えると、一つ息をついてからゆっくりとサンジが体を起こした。ゾロの股座に座り込み、そっとゾロのものを握り込んだ。
 血管の浮いた赤黒い性器に白く長い指が絡み付いている様だけでも相当クルが、さすが男だけあってポイントを押さえた手の動きに思わずゾロの呼吸が乱れる。その変化を敏感に察知したサンジがチラリと上目遣いでゾロを見上げた瞬間、唐突に射精欲が込み上げてきた。
「ぐっ……」
 流石に早過ぎるとなんとか耐えたが、喉の奥から声が漏れる。
「せっかくイキそうだったのに、我慢すんじゃねェよ」
 不服そうな声を出し、しばし思案顔をしていたサンジが再び口を開いた。
「しょうがねえな、さっさとイカせるために特別大サービスだ」
 言うなり、扱く手はそのままに顔を寄せると裏筋をべろりと舐め上げた。
「おい、テメェ何やっ」
 このプライドの高い男が自分相手に口淫をしているという信じ難い事実に動揺し声を上げるが、サンジは気にした風もなく、あろうことか今度は躊躇うことなく鬼頭を口に含んだ。
「……くっ!」
 ぬるりとした感触と視覚の暴力で、あっけなくゾロはサンジの口の中に精を放った。
「うえっ、飲んじまった」
 サンジの口の端から飲み切れなかった残滓が溢れる。
 それからゾロの方を見て、
「ヘヘッ、どうだ。イカせてやったぜ」
 と満足そうに笑うと、そのままゾロにもたれかかるようにして倒れ込んだ。呆気に取られて動けずにいると、スースーと寝息が聞こえてきた。
「信じらんねえ、このタイミングで寝やがった」
 脱力して、後ろに倒れ込む。
 信じられない、本当に、この男の何もかもが。
「…………ヤベェな」
 ポツリと呟くと、ゾロは腕で目を覆った。