ヒヤリとする感覚に意識が浮上する。
体が熱くて怠い。
そういえば熱を出して倒れたのだったと思い当たる。
どうやら誰かが濡れタオルを額に置いてくれたらしい。
しばらくすると、優しい手つきで髪を撫でられた。
撫でてくる手の感触が心地良くて、ふいに子どもの頃に母が同じように髪を撫でてくれたことを思い出した。
懐かしくて幸せで、でもどこか切ない気持ちでうっすらと目を開けると、鮮やかな緑が目に飛び込んできた。
ゾロだ。
眉間に皺を寄せた険しい顔つきの中に、わずかに心配の色が見える。
あいつが、普段犬猿の仲である自分の看病をしているというだけでも驚きなのに、その顔つきからは想像もできないほど優しい手つきでおれの髪を撫でているものだから、都合のいい夢を見ているのではないかと疑った。
思わず声を出しそうになるが、グッと堪える。
おれが起きたと分かれば、多分こいつはすぐに髪を撫でるのをやめてしまうだろう。
それはなんだかひどく勿体ないことに思えたのだ。
さらさら、さらさら。
優しい手が何度も髪を滑る。
ああ、なんて温かいんだろう。
出来損ないの自分がさらに役立たずになるだけだから、風邪を引くのは忌々しいことだと思って生きてきた。
けれど今日初めて、ほんの少しだけ、風邪をひくのも悪くないと思えた。