この戦いを制したら

「ブライダル熱拳!!」
「借りなし!!」

 さっきから軋んで違和感のある体、ゾロは薬で一時的になんとかなっているものの実際は満身創痍と懸念事項はある。
 だがあいつとの間に貸し借りなし、それだけで心置きなく戦えるってもんだ。
 おれは怪獣野郎、ゾロは鳥野郎を相手に全力で立ち向かう。

 途中、同時に弾き飛ばされて背中合わせに着地した。
「おいまゆげ、たかが怪獣一匹倒すのにえらく時間かかってんな」
「うるせェよアホ剣士。そっちこそ鳥一羽に何苦戦してんだ」
 ハッと笑い、背中越しに牽制しあいながら、戻ってこれたのだと実感する。
 一度は諦めた。手放すことを覚悟した。
 でもまた手に入れたのだ。
 互いの熱を、息遣いを感じながら、背中を預けて思い存分戦える幸福を。

「ところでよ、なんであいつおれ達が結婚したこと知ってるんだ?」
 隣に並び立てる喜びを嚙みしめていると、ふいにゾロが疑問を投げてよこした。
 そういえば、あの怪獣野郎はさっきブライダルとかなんとか言っていたような。
「さあなァ?あまりにおれ達が息ピッタリでラブラブだからそう思ったんじゃねえの」
 答えつつネクタイをグイと緩めると、白く眩しい胸元が顕わになった。
「それか、」
 そこには、負けじと眩い輝きを放つ金色のネックレス。
「これが見えたのかもな」
 ペンダントトップには、決して離れることのないようにと重なった二本の指輪。
「もしそうならえらく目のいい野郎だな」
 緊迫したこの状況に不釣り合いなガキくさい顔で、ゾロが笑う。
 それから、ふっと真面目な顔に戻って
「おい、ぐるぐる。この戦を制したらよ」
 とあの新しいあだ名で呼びかけてきた。
 まるでさっきのデジャヴだ。
「今度は何だよ?」
 しかし、続くセリフは予想の斜め上をいくものだった。
「二人だけでもいいから……結婚式挙げようぜ」
 この状況でこんなこと言うか、普通。
 だがそれでこそ、おれが生涯を誓った相手だ。
「それはルフィが許さないだろ。やるなら仲間全員で、盛大な宴やるぞ!」
「うし!それじゃあさっさと終わらせるか」
 バンダナを、ネクタイを、再び締めなおすとまさに襲い掛からんとしていた巨体と対峙する。
「おいコック、10秒だ」
「……妥当な時間だな」