xyz

「いい加減返事聞かせろ」
 酒を煽り横柄な態度で宣う剣士に一瞥をくれつつ、シャカシャカと手の中のシェイカーをリズムよく振る。
 冷やしておいたカクテルグラスに乳白色の液体を注ぎ入れたところで、ちょうどゾロが酒瓶を空にした。
 我ながらナイスタイミングだ。
 内心ほくそ笑みながらも表情には出さず、出来上がったばかりのカクテルを優雅な手つきでサーブする。
「なんだこれ」
「……xyz」
 おれがそう答えると、隣で飲んでいたロビンちゃんがあら、と呟いた。
「うふふ、素敵ね」
 咲きこぼれる花のような可憐な笑顔に、なんて美しいんだろうと思う。でも——。
「何がだ」
「それを言うのは野暮ってものよ。……ねえ、コックさん?」
 悪戯っぽく首をかしげるロビンちゃんに苦笑いで答える。

 酒なんて飲めればなんでもいいと思っていそうな寝腐れマリモが、このカクテルを、込められた意味を、知ってるだなんて思っちゃいない。むしろこのままずっと知らなくていいとさえ思う。
 素直になれないおれの、精一杯のアンサー。

 ゾロが不機嫌そうに顔を顰め、乱暴にグラスを掴みグイッと呷る。
 一口飲んだところで何かに気付いたように一瞬動きを止め、その後はあいつにしてはゆっくりと、味わうようにカクテルを飲み干した。
 静かにグラスを置いたゾロの眉間に、先程あった皺はもうない。
 代わりに満足そうに下げられた目尻に隠しきれない愛慕が滲み、たまらない気持ちになる。
「この酒がなんなのかは皆目見当がつかねェが……そうか、これが答えでいいんだな?」

 相変わらず、肝心なところだけは外さない野郎だ。
 ロビンちゃんも、ナミさんも、レディはみんな美しくて大好きだけど——おれが欲しいと思うのは、おまえだけだよ、ゾロ。

「xyz」に秘められたカクテル言葉。
 それは、「永遠にあなたのもの」