悪くない

「宴だァ〜〜〜っ!!」

 毎度お馴染みの船長の号令で始まる宴が好きだ。
 飲んで騒いで底抜けに笑うのも好きだが、何よりも一番好きなのは——。

「乾盃!!」

 そう、乾盃のこの瞬間。
 なんでかって?
 それはだって、ほら、アレだ。——ゾロが笑うから。
 顔いっぱいで楽しいですって感じで笑って、しかもその笑顔がおれにも平等に向けられる。
 宴ってのは楽しいモンだからな、そんな笑顔におれも素直に笑って返すし、なんなら腕を組み合ってジョッキを傾けたりなんかして。
 悪くないだろ?
 だからおれは、乾盃の瞬間が好きだ。

 

   *

 

 宴は好きだ。
 酒がたらふく飲めるし、仲間とバカ話するのも悪くねェ。
 乾盃の瞬間もいいな。
 高揚感が最高潮に達して、最初の一口を流し込む。あの瞬間がたまらねェ。思わず嬉しくて笑っちまうくらいだ。

 ——あともう一つ。

 その最高の瞬間に、誰一人欠けてねェのがいい。
 普段の食卓は、常にコックが欠けている。
 人にはうるさく言うくせに、自分は給仕だなんだで一人だけ食事の席につかないせいだ。
 でも乾杯の時だけは。コックもみんなと一緒にテーブルを囲む。
 その光景は、ようやく満ちた真ん丸の満月みたいで……そうだな、悪くねェ。