生きている

 ワノ国での戦いに終止符を打ち、連日の宴がようやく終わりを迎えた晩。
 一味が寝泊まりする村の外れにある廃屋に、二つの人影があった。明かりといえば窓から差し込む青白い月の光くらいの薄暗い室内に、グチュグチュと淫靡な水音が響く。
「あ、あっ……もうイクッ…!」
 あまりの気持ち良さに思わず目の前の逞しい首筋にしがみついたサンジの腕は包帯だらけだ。腕だけではなく、乱れた和服から覗く胸や腹、足に至るまで包帯が巻かれており、その姿はひどく痛々しい。
 それは向かい合ってサンジのモノを扱いて追い上げているゾロも同じ、いやむしろ痛々しさはサンジを上回っていた。戦いの終わりから数日が経ち、驚異的な回復力を誇る二人の傷は多少癒えたものの、負った傷の重さ故にまだ回復したというには程遠く、包帯のあちらこちらに血が滲んでいる。しかし今の二人には血液特有の生々しい匂いさえも興奮を煽る材料にしかならないようだった。
 獣のように荒い息を吐きながら、サンジが切なげに眉を寄せる。あと一回擦りさえすれば絶頂を迎えられるというところで、ゾロは突然手の動きを止めた。
「や、なんで……っ」
 行き場を失った快感が体中を巡り、ぶるりと全身を震わせたサンジが縋るような目でゾロを見る。対するゾロの中心も着物を押し上げるほどに勃ち上がり、その顔は決して余裕があるものではない。そんな自分を抑えるようにふうと深く息を吐くと、ゾロは着物の帯から小さな袋を取り出し、歯で噛み切り中身を手に取った。
 薄闇でてらてらと光るそれは、いわゆるゴムと呼ばれる避妊具だ。
「は?なんでゴム?」
 いつもおれがどれだけ言っても付けた試しなんかねェだろ、と思わず正気に戻ってサンジが文句を言う間に、ゾロは張り詰めたサンジのペニスに手早くゴムを被せた。
「包帯汚したらチョッパーに怒られるだろ」
『いいか、二人とも絶対安静だからな!』と言い渡したチョッパーの声が蘇る。もし包帯を精液で汚せば、言いつけを破ったことがバレて可愛い馴鹿の船医を泣かすことになるだけでなく、二人が何をしていたかまで知られてしまうだろう。ゾロとしては自分達の行為がバレても別に構いはしないが、自称繊細なハートを持つ目の前のこの男はしばらく触らせてくれなくなるに違いない。
「それに……いや、なんでもない」
 ゾロは続く言葉を呑み込んだ。
 いくら頑丈とはいえ、全身傷だらけで内臓にも損傷が及んでいるかもしれない状態では、ゾロを受け入れるだけでも相当な負担がかかるだろう。そのうえ中に出してしまえばさらに負担をかけることになる。サンジにばかり負担を強いるのが嫌だったのだが、そんなことを素直に口にしようものなら、『マリモのくせに余計な気遣いなんかするんじゃねェ』とかなんとか言って意固地になるのは目に見えている。
 だから、ゾロは黙って帯からもう一つ袋を取り出すと、着物の裾を割って自分もゴムを付けようとした。その手を、サンジが手を伸ばして掴んで止める。
「……いいから」
「いや、でも」
「おれがいいって言ってるからいいんだよ!」
 そうして、先ほどゾロが付けてやったばかりのゴムを外し投げ捨ててしまった。
「おい、」
 咎めようとした口は、貪るような口づけに塞がれた。
 舌を絡ませ、探るように、確かめるようにゾロの口内を味わっていく。応えるようにゾロも舌を絡めてやると、サンジは子犬のような声を漏らした。互いに舌を絡め合い、なぞり、噛みついて、余す所なく食い尽くして満足したのか、サンジはようやく唇を離すとそのままゾロの耳元へと顔を寄せた。
「なあ……直接、おまえを感じたいんだ」
 吐息とともに言葉を耳に吹き込みながら、ゾロの手を自分のペニスへと導く。導かれるままにゾロが軽く握り込むと、それはまるで歓喜するかのようにゾロの手の中でふるりと揺れた。
「こうやって手で握られるのも、この硬くてデカいのでナカを擦られるのも……」
 サンジの手が伸びてきて、痛いほどに張りつめたままのゾロ自身に白く細長い指をそっと絡めると、自らの後孔へと軽く押し当てるようにした。まだ固く閉じたそこは、それでもゾロの先端に口付けるかのように優しく吸い付いてくる。
 そのまま突っ込みたくなる衝動を必死で抑え込んでいるのを知ってか知らずか、再び掠れ声が耳へと吹きこまれた。
「今は薄いゴム一枚だって隔てたくねェんだ。だからそんなモンつけずに突っ込んでさ、思い存分おれのナカにぶち撒けろよ」
 蕩けるような、でもどこか切羽詰まったようなを見た途端、ゾロに残っていた最後の理性はあっという間に陥落した。
「覚悟はできてるんだろうなァ、クソコック」
 完全に野生の獣の顔となったゾロが壮絶な笑みを浮かべる。
「男に二言はねェよ。来い、天国見せてやる」
 低い呻き声を上げたゾロが着衣を一瞬で脱ぎ去ると、帯から先ほどと同じ袋がバラバラと幾つもこぼれ落ちた。
「いや、どんだけヤるつもりだったんだよこの絶倫マリモめ」
 ケタケタと笑うサンジを押し倒し、イク寸前だった愛しい男の分身を二、三度擦り上げると、首を仰け反らせて呆気なく白濁を噴き上げた。息が整うのも待たずに性急に、けれど傷つけることのないように丁寧に後ろを解しつつ、傷だらけの全身に愛撫を施していく。
 程なくして柔らかく解けたそこに、熱く硬い塊が押し付けられた。小刻みに前後しながら、内臓をかき分けて押し入ってくる圧倒的な質量。何度体を重ねても慣れないこの瞬間は、生きているということを何よりも実感する瞬間でもある。
 苦しくて、熱くて、どうしようもなく満たされて——。
 触れ合った場所から溶け落ちそうな熱が、隙間なくピッタリと密着した粘膜から感じる拍動が。この腕に抱く温もりが幻ではないのだと教えてくれる。
 再び生きて戻ったのだと、教えてくれる。
「ぞろ」
 サンジが手を伸ばしてきたのを合図に、ゾロが律動を開始する。本能の求めるまま、二人は互いの熱を分け合う行為に時を忘れて没頭した。

 

「あーあ、どうするよ、これ……」
 汗と精液と血液でドロドロになり、申し訳程度に体に引っ掛かっている包帯を持ち上げてサンジがため息をつく。
「チョッパーに謝るしかないだろうな」
「セックスしてたらこんなになっちゃいましたってか?言える訳ねーだろ!」
 喚きながらサンジがゾロの脇腹を軽く蹴る。
「いってーな、だからおれはゴムつけようとしたのにテメェが」
「あーあーあー!確かにゴムなしでいいって言ったのはおれだが、もう少しなんとかなっただろ!配慮ってものができねーのかクソまりもは!!」
「あ?テメェだってノリノリだったじゃねェか。ほら」
 そう言ってゾロが自分のドロドロになった包帯と、太ももの内側に控えめについたキスマークを見せつけるとサンジは真っ赤になって黙り込んだ。それでも懲りずに「でも……」などと言おうとするので、ゾロは奥の手を使うことにした。
「分かった。じゃあもうこれからは絶対にゴムなしではしねェ」
 途端に、サンジの目がウロウロと泳ぎ出す。
「そ、そんなのおまえには絶対無理だろ」
「おれは一度した約束は死んでも守る」
「ううう」
「約束していいんだな?」
「…………だ」
「うん?」
「ダメだって言ったんだよ!約束しない代わりに、チョッパーにはテメェ一人で適当な理由つけて謝っとけ!」
「いいけど、貸し一な」
「はあ!?なんだよそれ」
「当たり前だろ。さあて、どうやって借りを返してもらおうか」
 ニヤニヤとゾロが悪い笑みを浮かべる。
「〜〜〜〜!借りを作るくらいなら自分で謝る、さっきの話はなしだ!」

 

 結局、この後二人はカンカンに怒ったチョッパーに
「絶対安静って言ったのに、なんで交尾なんかしたんだ!だいたい肛門性交はな……とお説教を食らう羽目になり、ゾロは臍を曲げたサンジに当面の間触ることはおろか、近寄ることも禁止と言い渡されたのだった。