2.
兵営生活の一日は、五時半の起床から九時の消灯までスケジュールが決まっており、特に初年兵はあらゆる雑用をこなさないといけないので談笑をする短い時間すらないのが現実だ。唯一自由が与えられるのは勤務のない日曜と祭日で、その時だけは外出することが許される。大抵の者は盛場に出かけて行って遊ぶなり遊女と過ごすなりして日頃のストレスを発散して帰ってくるが、ゾロは違った。大体いつも、私物である愛用の竹刀を持って河原へ出かけて素振りに明け暮れ、時々酒を引っ掛けてくるくらいだった。
とある日曜日、ゾロはいつものように竹刀を持って河原へ出かけ、気の済むまで素振りや筋トレに励んだ後は、寄り道することなく刻限よりも少し早い時間に帰営した。兵舎に戻ろうと歩いていると、建物の裏手の方から言い争うような声が聞こえてきた。
一瞬、聞こえなかったことにしようという考えが頭を過る。しかし、元来の正義感の強さゆえに足は自然と声が聞こえてくる方へと向かっていた。段々聞こえてくる声が大きくなってきたと思ったら、何かがぶつかり合うような鈍い音の後に人が倒れ込むような音が聞こえてきたのでゾロは歩を早めた。
建物の角を曲がると、木立で影になる部分に数名の人影が目に入った。先ほど音を立てた主だろうか、一人は地面に仰向けに伸びている。視線を上げてこちらに背を向けている男の頭を見た途端、ゾロの頭は真っ白になった。
(なんでここに敵国兵が!?)
薄暗がりでも目立つ金の髪。ここではあり得ない色だ。
少し考えれば、いくら日曜日とはいえ全員が出払っているわけではない兵営に敵国兵が一人で乗り込んでくるはずはないし、誰一人として銃を構えていないことの異常さに気づけただろう。けれど頭に血が上っていたゾロにそんなことを考える余裕はなかった。
「やめろーーー!!」
唸り声を上げて金の髪の男に突進してゆく。
と、振り向きざまに男が猛烈な蹴りを繰り出した。てっきり拳が飛んでくるだろうと思っていたゾロのガードが薄い腹部に、重たい蹴りが直撃する。比喩ではなく、本当に後方に吹っ飛ぶと、迫り上がる嘔吐感に耐えられずゾロは体を折って胃の中の物を吐き出した。
自慢じゃないが、剣道で鍛えられた逞しい肉体を持つゾロは喧嘩も滅法強く、これまでに吹っ飛ばされたことなんか一度もない。そんなゾロにとって、たったひと蹴りで吹っ飛ばされるなんてこの上ない屈辱だった。
「やりやがったな……」
背中に背負っていた竹刀を手に取って構える。
「覚悟ーーー!!」
地面を蹴って勢いよく突っ込んでいき、振り下ろした竹刀が男の靴の裏で止められる。すぐさま構え直して打ち込んだ太刀筋もまた靴裏に阻まれた。時々互いに一撃を入れながらも、目にも止まらぬ速さで竹刀と脚との攻防を繰り返す。その様子をぽかんと大口を開けて眺めていた残りの人間が、ようやく我に返って上官を呼びに行ったのにも気付かないくらい、二人は夢中になってやり合った。
「何をやっとるか!」
駆けつけた上官達に数人がかりで羽交締めにされてもなお牙を剥き暴れる二人に、さらに怒鳴り声が飛ぶ。
「仲間同士で喧嘩をするなど、おまえらは営倉行きだ!!」
「なか、ま?」
抵抗を続けていたゾロからふっと力が抜けた。
「こいつ、敵国兵じゃないんですか……?」
「おまえの目は節穴か!これが我が軍の軍服以外の何に見えると言うんだ!」
そう言われて改めて男の服を見てみると、それは自分が着ているものと全く同じだった。襟章の緋色地に一つ星まで同じだ。つまりは、同じ二等兵ということになる。そんなことに気付かないほどに逆上していたと知って愕然としていると、
「どうりで殺意を感じると思ったら……そんなことにも気付かないなんてバカなのか?」
皮肉げに口を歪めた金の髪の男が言い捨てた。
「口の聞き方がなってない!」
すぐさま上官に殴られて呻きながらも、男は再び顔を上げて強い瞳でゾロを睨んだ。髪と同じく色素の薄い、一点の曇りもない空色の瞳。肌の色もやたらと白く、やはり同じ国の人間には到底見えない。そんなゾロの考えを見透かすかのように男が言った。
「テメェも所詮は人を見かけで判断する人間なんだな」
「だからおまえは口を慎めと言っただろう!」
もう一発殴られてから、男が営倉へと引き摺られていく。
あまりにその通り過ぎてぐうの音も出ず、謝罪の言葉すら言えずに項垂れるゾロも続くように営倉へと引き摺られていった。
ギィと音を立てて扉が閉められると、辺りは薄暗闇に包まれた。まだ記憶に新しい異臭が鼻をつく。狭いその部屋の右側の壁に歩み寄ると、ゾロは体を壁にピタリとつけて正座をした。
この壁の向こう側には、あの金の髪の男がいる。
目を瞑ると、『テメェも所詮は人を見かけで判断する人間なんだな』と言い捨てた男のゾッとするほどに冷え切った空色の瞳が瞼の裏に浮かんだ。
あれは、失望することに慣れきった人間の目だ。端から何も期待していない目。ああなるまでに、一体どれだけの失望を重ねてきたのだろうか。
どんな理由があるにせよ、自分のしたことはあの男にまた一つ失望を重ねさせた。そしてそれは、絶対にしてはいけないことだった。冷静さを取り戻した頭で、そう思う。
コン、とゾロは壁を一つ叩いた。
「少し、話してもいいか」
返事はなかった。けれど聞こえてはいるはずだ。ゾロは構わずに話を続けることにした。
「さっきは悪かった。すまない」
フンと鼻で笑う気配がした。ややあって、壁の向こうから冷たい声が届く。
「謝って気が済んだか」
「そういうつもりじゃ、」
「じゃあどういうつもりだ」
「どうもこうもねェ。頭に血が上ってたとはいえ、おれのしたことは絶対にやっちゃいけないことだった。間違いを犯したら謝るのが普通だろう」
「……変な奴。今までに同じことして謝った奴なんざいねェよ」
「それはそいつらが間違ってる」
「…………」
「なあ、ここ出たらおれのこと殴ってもらって構わねェ……いや、おまえの場合は蹴りか?そんなもんで許してもらおうなんて思ってないが、少しでも気が晴れるなら好きにしてくれ」
「アホかおまえ。そんなことしたらまた営倉行きじゃねェか」
先ほどよりも少し緩んで温度の通った声。それを聞いて、ゾロは思わず壁の方を向いた。
この、声。
「おまえ……もしかして〈サンジ〉か?」
「あ?なんでおれの名前——」
言いかけた言葉が不自然に途切れる。
「〈ゾロ〉?」
「そうだ、ロロノア・ゾロ。殴り殺されそうになった同期を庇ってここにぶち込まれた二等兵」
こないだ初めての営倉行きをくらった時に、壁越しに話した同い年の男。
顔も知らないその男が、金の髪に空色の瞳を持つだなんて誰が想像できただろう。
「そっか、おまえだったのか。まさかこんな形で再会するとはな」
「それについては本当にすまなかった。でもまさか、壁越しに話した相手が金色の髪してるなんて思いもしなかった……あ、もしかして前に言ってたここに入れられた理由ってその見た目なのか?」
「遠慮ってものを知らないのかテメェは」
すぐさま凄みを利かせた声が返ってくる。
裏表がない代わりに、すぐ相手に直球をぶつけてしまうのはゾロの悪い癖だ。謝った舌の根も乾かぬうちからまた失礼な発言をしてしまったことを詫びると、サンジは呆れたようにため息をついた。
「悪気がなさそうなのがまたタチ悪いんだよなぁ……まあいいや。そうだよ、ここに入れられる理由の大半はおれの見た目が気に入らないってだけだ」
「なんだよそれ、ひでェな」
でも、それは想像に難くなかった。なにしろ、その見た目は敵である異人そのものだ。敵と似た風貌を持つものを、理不尽にまみれた軍隊の人間が放っておくはずはなく、最下級の身分も手伝っておそらく体のいいストレスの捌け口にされているのだろう。そして、故意ではなかったとはいえ自分も似たようなことをしたのだ。ひどいのは、自分も同じ。
「いや、おれも一緒だよな……ごめん」
「もういいって。そんなに何度も謝るな。そうだ、悪いと思ってんならさ、今度の休み付き合えよ。いつも一人で退屈してたんだ」
「は?」
「だから、次の休みは酒飲むか街に出るかしようぜってこと」
「おれでいいのか?どうせいつも休みは一人で過ごしてるから構わねェけど」
「いいんだよ。よしっ!じゃあ決まりな」
サンジの弾んだ声が耳に届く。先ほどあんなに冷たい目をしていた男が、ゾロのことを許すばかりでなく、一緒に休みを過ごすことを楽しみにしているらしい。切り替えが異常に早いのか、とてつもなく懐が広いのか。いずれにせよ自分には到底できそうにないことをやってのけるサンジに、ゾロは尊敬に近い念を抱いた。
「サンジ……おまえってすごい奴だな」
「今更気づいたのか、おせーよ」
サンジが小さく笑う。釣られて、ゾロも久しぶりに笑った。
♦︎
「それじゃあ、営倉常連の縁に乾杯!」
喧騒の中、ガチャンとグラスを雑にぶつけあう。
数日間の営倉生活を終えた後にようやく訪れた休日。約束通りゾロはサンジと一緒に街に繰り出しビアホールへとやって来ていた。
「あー、やっぱビールは美味いな!」
よく冷えた琥珀色の液体を喉に流し込んだサンジが満足そうに笑う。
「だな。しかしその営倉常連ってのはなんだ、おれは別に常連じゃないぞ」
対して一気にグラスの半分ほどを飲み干したゾロは苦虫を噛み潰したような顔だ。
「二回も入れば常連だろ」
「ちなみにおまえは何回入ったんだ?」
「んー、五、六回は入ったかも」
「はあ!?何すりゃそんなに入る羽目になるんだよ」
「だから前言ったろ。見た目が気に入らないって理由だけで放り込まれるんだよ、ほらおれって目立つから」
そういえばそうだった、と思いながら複数の視線を感じてゾロはぐるりと視線を巡らせた。慌てて視線を逸らす者、眉を顰めて何ごとか囁き合いながらこちらを見ている者、敵意に満ちた目で睨んでくる者。軍帽で隠れているとはいえほんの僅か見える金の前髪、やたらと白い肌、明るい空色の瞳と明らかに敵国の人間と似た容貌のサンジに向けられる視線は、現にこのような場所でも好意的ではないものが大半だ。
「悪いな、おれといるせいで。これ飲んだらすぐ出るか?」
それに気付いたサンジが肩をすくめて言う。
「別におれは構わねえが……おまえずっとこんななのか」
「まあな。軍隊入る前からずっとだから、もう慣れたけど」
「なのにどうして軍なんかに入ろうと思ったんだ?というか、おまえ、その……この国の人間なんだよな?」
ゾロの質問に、サンジは盛大に顰めっ面をした。
「んっとにテメェってやつはどうしてそうなんだ」
「あ、悪ィ」
「まあ別にいいけどさ。悪意がないのは知ってるし。ちなみにおれは歴としたこの国の人間だよ。国籍だってちゃんとある。外交官の父が海外赴任中に母と出会って生まれたのがおれってわけ。おれの見た目は母親譲りなんだ」
「そうだったのか」
「で、なんで軍に入ったのかっていう質問だけどな。それはおれがはみ出しモノだったからさ。おれが軍に入っていなくなって、周りはきっと清々してるよ」
「なんで、ご両親は」
「おれが五歳になる頃に父は家族を連れてこの国に戻った。こっちに来てから、母はその見た目もあってきっと苦労したんだと思う。一年も経たずに心労から病気になってあっという間に死んじまった。父は優しかったけど、忙しい人だったからそもそもほとんど家にいなかった。だから母が死んだ後は祖父母に育てられたけど、毎日毎日『こんな子供はこの家の恥だ』って言われ続けるし、学校でもいじめられるしでなかなかに悲惨だったな。そんないらない人間でも、国のために戦って死ねば少しは役に立つだろう?」
さらりととんでもない半生を暴露され、ゾロは絶句した。大変だったのだろうとは思っていたが、まさかここまでだったとは。あんなに冷え切った目になるのも納得だ。そのうえ軍に入っても同じような仕打ちを受け続けていたサンジに、自分は本当になんてことをしてしまったのだろう。
「こんな辛気臭い話、ビールが不味くなるからやめようぜ。ところでおまえはさ、なんでわざわざ自分から志願して入隊したんだ?」
謝罪の言葉を口にしようとしたところで、サンジが話を一方的に切り上げてゾロに水を向けてきた。
「おれか?一言で言えば復讐、だな」
「復讐?」
「いや、この話もビールが不味くなるからやめよう」
それからは二人で他愛のない話をしながらもう一杯ずつビールを飲み、わずかなつまみを分け合って食べた。刻限に遅刻するとまた営倉行きになるので、時間に余裕を持って店を出ると兵営までの道を二人でぶらぶらと歩いて行く。
「楽しかったなぁ、今日。誰かと飲みに行くの初めてだったんだ。付き合ってくれてありがとな」
取り出したタバコにマッチで火をつけながらサンジがしみじみと言った。
「おれも楽しかった。ビールは美味かったし」
話しながらなんとはなしにタバコに目をやると、おまえも吸う?と一本差し出してきた。
「不味いけどな。まあでも安いし、ないよりマシだ」
ゾロに普段タバコを吸う習慣はないが、せっかくなので受け取って口に咥える。すると、サンジがタバコを咥えたまま顔を近づけてきた。
「ほらよ、火」
火のついていないゾロのタバコの先端に、サンジが自分の吸いかけのタバコの先端をくっつける。間近に迫った顔の、髪と同じで金色の睫毛が目元に影を落とすのを眺めながら、ゾロは息を吸い込んだ。
ゾロのタバコの先端がオレンジ色に光り、煙が肺に流れ込んでくる。
「確かに不味い」
「だろ」
「でも、悪くねェ」
「そっか。なあ、またこうやってさ、休みになったらたまに一緒に出かけねェ?」
「いいな、それ。悪くねェ」
「んじゃまた誘うわ」
「おう。おれからも誘っていいか?」
「もちろん」
へへっと笑うガキくさい顔に、こんな顔もできるんだなとゾロは驚く。悲惨な人生を送ってきたのに、きっとこの男の根っこの部分はひねくれずに真っ直ぐだ。だからこそ、ゾロの謝罪を受け入れて許し、あまつさえこんな笑顔まで見せるのだろう。そんなところを改めて尊敬すると同時に、好ましく思う。
「おまえってやっぱすごいよな……おまえみたいな奴、おれ好きだ」
一瞬きょとんと目を見開いた後、サンジは破顔して言った。
「そんなこと言われたのも初めてだ。そうだな……おれもおまえのこと、嫌いじゃねェよ」
それから結局、休みはほぼいつも二人一緒に過ごした。
ゾロもサンジも、一人で過ごす以外の予定なんかなかったからだ。たまにサンジが営倉行きをくらって出てこられない時だけは、ゾロは以前のように竹刀を持って一人河原へ行き、ひたすら素振りをして過ごした。
一緒に過ごすといっても、刻一刻と食糧事情が厳しくなっていくなかで毎回外に飲みにいくわけにもいかない。だいたいは、兵営内の酒保で日用品を買うついでに少し飲んで食べたり、ゾロがよく行く河原に一緒に行ったりして過ごした。心が荒むような理不尽ばかりの日々の中、そんな何てことのない時間が唯一の楽しみであり、癒しだった。
河原での楽しみは喧嘩という名のトレーニングだ。営内で喧嘩をすれば即座に営倉行きとなるが、人気のない河原では咎める者はいない。二人は時間を忘れて喧嘩に没頭した。
ゾロが人生で初めて吹っ飛ばされただけあって、サンジの蹴りの威力は凄まじかった。すらりと細い体躯からは想像もつかないほど重くて鋭い蹴り。全く体幹がブレることなく、連続で蹴りを繰り出してもさほど息が上がらないだけの筋力と体力。そんなサンジ相手にゾロは時には肉弾戦で、時には竹刀で挑み、あちこち青アザだらけになりながら(喧嘩がバレてはいけないので顔だけはお互いに外した)、体力の限界までやり合った。
「疲れたなあ」
「もう一歩も動けねェ」
「あー、身体中痛ェ……でもやめられないんだよなぁ、コレ」
「おまえみたいな強い奴とやりあえるの、楽しくてたまんねェからな」
「フッ、おれは強いだろう」
「おれの方が強いけどな」
「なんだと!?じゃあ白黒はっきりつけようぜ」
動けなかったはずなのにそこからまた喧嘩して、今度こそ指一本動かせなくなるくらいクタクタになるのは最高に楽しかった。一人での素振りも悪くない。でも、対等に張り合える存在がいるというのは、こんなにも満ち足りた気持ちになるのだ。
(こんな気持ち、すっかり忘れてたな)
忘れていたというよりは、意図的に忘れたという方が正しいかもしれない。そんなふうに自ら記憶の底に沈めた気持ちも、サンジといれば思い出すのも苦ではなかった。それどころか大切な宝物のように思えて、ゾロは自分の心が幾ばくか救われるような気がした。
サンジもまた、両親以外で自分に対してこうして分け隔てなく接してくれたのはゾロが初めてで、まるで子供時代に経験できなかったことを取り返すかのような時間に、空っぽだった心が満たされていくようだった。
極たまに、二人は色街に出かけることもあった。とはいっても、遊女を買うわけではない。ただ歩いて回るだけだ。
「ああ美しいレディ、何て素敵なんだ!」
通りの両脇の格子からひらりひらりと手を伸ばして誘う遊女にだらしなく相好を崩して美辞麗句を並べ立てるサンジの横を、ゾロはひたすら黙って歩く。
「なあ、テメェは遊んでいかなくていいのか?」
一度、サンジがそう尋ねたことがあった。
「いい。必要ない」
「若いのに欲のない奴だなぁ……え、もしかして不能症とか?」
「誰がだ!そういうおまえはどうなんだよ」
「おれ?おれは美しいレディにこうやってお目にかかれるだけで十分幸せだ」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」
「変なやつ」
「うるせェほっとけ」
そんなやりとりをして以降、サンジが望んだ時だけゾロは遊郭散歩に付き合っている。正直女を買わないのに遊郭に行く意味が分からない。でも、心底幸せそうな顔をして客寄せをする女を眺めるサンジを見ていると、無駄な時間ではないような気がするから不思議だ。
そんな風に過ごす週に一度のわずかな時間が積み重なり、気付けば互いに相手の懐深くまで入り込んでいた。友達とは少し違うような、名前のない関係。最早なくてはならないものとなったそれが心を彩っていくのと対照的に、戦況は日増しに悪化の一途を辿り暗い影を落としていった。