『はるか遠くのことを、碧落と言うそうよ』
『あおみどり色の「碧」に「落ちる」と書いて碧落。——とてもきれいな言葉』
うっとりと本のページをなぞりながらロビンちゃんがそう教えてくれた時、頭をよぎったのはマリモ野郎の面影だった。
近いのに果てしなく遠くて。ハッとするくらいきれいで。どんなに欲しいと手を伸ばしても、決して手が届くことはない。眩暈がしそうなくらい真っ青な、頭上に広がるこの空のように、ただ眺めることしか許されない。そんなアイツにぴったりの言葉だと思った。
ポケットからそっと取り出した青いビー玉を太陽に翳す。覗き込めば、映るのは真っ逆さまの世界。
青い空は地に、白い雲は天に。透き通ったガラスの中では、はるか遠いはずの碧——碧落——は、文字通りおれの手の届くところへと落ちてくる。
(ビー玉越しに見れば、ゾロだって……)
バカなことだってわかってる。そんな魔法みたいなことは起こらない。
いつだって、ビー玉の向こうに伸ばした手はむなしく空を切るだけだ。
それでもおれは空を、焦がれてやまない碧を、ビー玉越しに見ることをやめられない。
入道雲
