海に行こうと誘ってきたのは、ゾロの方だった。
夏休みを間近に控えた金曜日。
学校が終わってからチャリを飛ばして、それでも海に着いたらもう夕方で。裸足になったおれ達は、ほんの少しだけ波打ち際を歩いた。肌を濡らす海水は、太陽の熱をほんのりと残していて生ぬるかった。
歩くのに飽きると、ゾロは浜辺に寝転びあっという間に眠ってしまった。
まったく、自分から海に誘っておいてコイツは。
まあでもゾロが自由奔放なのは今に始まったことじゃないし、特にすることもないので、おれはゾロの隣に腰を下ろし海でも眺めることにした。
燃え盛るオレンジが、海と空を染めあげていく。その様をぼんやりと眺めながら、嫉妬を色に例えるなら夕焼けの色かな、なんてことを思った。今日の昼休み、中庭で可愛い女の子から告白されるゾロを見かけた時、たぶんおれの心は切なくて苦しくて焦げつくような、目の前の夕焼けのような色をしていたから。
鼻を掠める潮の香りが薄くなり、風が止んでいることに気づく。夕凪だ。
隣を見ると、ゾロはまだ眠っていた。
ザザーン……ザザーン……
寄せては返す波の音。その合間に生まれる、わずかな静寂。眠るゾロの耳元に口を寄せると、そのわずかな静寂に紛れ込ませるようにして、小さく小さく言葉を吹き込んだ。
「ゾロ…………すき」
海と空と、夕焼けだけが知る内緒話。
そのはずだったのに、いつの間にかゾロは目を開けていて。火傷しそうに熱い手のひらでおれの腕を掴むと、そっと自分の方へ引き寄せた。
「……知ってる」
そう囁いた唇が、頬を掠め、驚きに薄く開いたおれの唇に触れる。
初めて触れた唇は熱いというより生ぬるくて、でも、焦げついたおれの胸を溶かすには十分だった。
夕凪(アオハルVer.)
