開いた傷を縫ってもらってすぐに酒を飲みに行こうとしたら、医者の野郎、「少なくとも三時間は絶対安静」なんて言いやがった。もちろん大人しく言うことを聞く気なんざなかったが、守らないなら今縫った傷を元通り開いた上にもう二度と縫ってやらん、などと脅してくるもんだから、こうして柄にもなくベッドに大人しく横になっているというわけだ。
そしてなぜか、ベッドサイドにはつい先日仲間になったばかりのコックが座っている。
「……傷。もう大丈夫なのか」
隣でヨサクとジョニーが寝ているからだろうか。コックの声は内緒話をするようなトーンだったが、おれは構わず普通に答えてやった。
「あんなかすり傷、どうってことねェ」
「かすり傷っておまえ……ほんっと、イカレてんな」
「イカレてるっつーなら、てめェも大概だろ」
女を前にしたコイツはとんだイカレ野郎だった。それから、魚人相手に水中戦を挑むところも。ただまあ、考えなしの自己犠牲イカレ野郎というわけじゃなく、咄嗟の状況判断能力に度胸、それから腕っぷしもそれなりにあることがわかったわけだが。そしてそれは——。
「まあでも、悪くないイカレ具合だったな」
なんの気なしに思ったままを口にする。
ふと訪れる静寂。別に返事を期待したわけじゃなかったが、不自然な沈黙が気になってコックを見ると、口を引き結んだ妙ちきりんな顔をして固まっていた。おれの視線に気づくと、コックが慌てて顔を背ける。
「そ、そうかよ。——それよりさ、よかったよな、ナミさん」
金髪から覗く耳を真っ赤に染めてわざとらしく話を逸らすところも、なかなかどうして悪くない。
「……ナミさん、おれ達と来てくれるかなァ」
「さァな」
ふいに窓から吹き込んできた風が、潮の香りを運んでくる。慣れ親しんだ海の匂い。冒険の香り。
果てしない海を羊の船で渡るその旅に、これからはコイツが加わる——それもなかなかに悪くないような気がして、おれは上機嫌に、声をあげて笑った。
夕凪(海賊Ver.)
