『廃忘の呪い——それが、おれにかけられた呪い』
子供の頃、夏祭りの帰りに両親とはぐれたおれは古い屋敷に迷い込み、そこで忘れられない出会いをした。
月明かりに青白く照らされたピアノを弾く横顔。胸を締めつけるような悲しげなピアノの音色。鍵盤の上を走る白く長い指。夕方のススキ野原みたいな色の髪や、青い宝石を嵌め込んだような右目。おれが出会ったのは、きれいなものばかりを集めて作ったような、そんな男だった。
『だからきみも。夢うつつに見る一夜の幻のように、明日になればおれのことは綺麗さっぱり忘れてしまう』
あのあと、どうやって帰ったのか気づけば自分の家に帰り着いていて。あれから何年もの月日が経ったけれど、いまだにおれは、きれいなものばかりでできたあの男を忘れられずにいる。
誰からも忘れ去られる呪いをかけられた、なんてただの冗談だったのかもしれない。
でもおれは、あの男が嘘を言っていたとは思わない。そうじゃなくて、きっとあの男がおれに呪いをかけたのだ。ひと目見たら最後、深く心に刻まれて忘れることのできない「銘肌鏤骨の呪い」を——。
*
「やっと見つけた」
探して探して、ようやく見つけることができた。
なんで、呪いは、なんて狼狽えているが、そんなことは知ったこっちゃねェ。それよりも今は。
「てめェの呪いを解きに来た」
幻を現に。そのあとで、消せない呪いをかけた責任をとってもらうのだ。