朧雲

 空が薄暗い。
 それは、空一面を覆う灰色の雲が太陽を霞ませているからか、はたまたおれが死にかけているからか。
 おれの命の残り火は、いまや風前の灯火だ。今にも消えそうな、細く頼りないゆらめき。
 
 死神どもが、地獄で手ぐすねを引いておれを待っているのが見える。
 好き勝手に生きてきた。数え切れないほどの人間を斬り捨て、最後はこうして孤独に野垂れ死んで地獄に落ちる。上等じゃねェか。我が人生に悔いなしだ。
 悔いも未練もないのだから走馬灯なんてものは見るはずがない。そう思っていたのに、なぜか今おれの頭の中では、懐かしい光景が浮かんでは消えていく。
 ぼんやりと不鮮明な記憶たち。どうやらそれは、おれが海賊として仲間たちと海を旅していた頃のもののようだった。赤、黄、橙、金、青、桃、紫、水色、白、黒、黄土色。色とりどりの記憶の中から、気づけば金と青ばかりを目が追っていた。まるで、誰かの面影を探すかのように。
 金と青、金と青。何よりもまぶしい金と何よりもきれいな青。それは——。
 
『ゾロ』
 
 コックだ。コックがおれを呼ぶ。
 悔いもない。未練もない。なのにコックはいつだって、たった一声でおれを地獄の淵から呼び戻す。
 
 たぶん、カルマみたいなもんじゃねェかと思うんだ。因果応報。
 おれ達の間に愛や恋なんてものは微塵も存在しない。かといって、処理目的というわけでもない。ただ、生きてることを確かめ合うように、互いを生に縛り付けるかのようにセックスなんてしたから。
 命を握り、握らせるような約束をしたから。
 おれ達の命の火は、きっと同時にしか消えることができない。
 まるで呪いのような業。呪ったのは、おれ達自身だ。
 
 消えかけていたはずの残り火が、ゆらりと火勢を増す。どうやら今回もまた地獄はお預けらしい。
 どこか残念に思うのに、きっとおれは海に出てコックを探し出し、愛でも恋でも処理でもないセックスをするんだろうという確信があった。
 そうしてまた互いに呪いあうのだ。本当に、なんだっておれ達は。

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