「うわっ、マジかよ」
オーブンレンジが壊れた。まだ買って数ヶ月しか経ってないのに。
こんなにすぐ壊れるなんて不良品に違いない、絶対にそうだ。そう息巻いてお客様サポートセンターに電話したら、とりあえず修理するにしろ交換するにしろ、一度商品を確認しないといけないからということで修理担当者に訪問してもらう予約をとった。
予約日当日。
おれの家にやってきた修理担当者は緑髪のゴツい男だった。年は多分、おれより少し上。
「こんにちは。ロロノア・ゾロと申します。早速オーブンレンジ見せてもらってもいいですか」
「お願いします」
見かけのわりに、感じの良さそうな人だ。
玄関先で簡単に挨拶を済ませると、早速ロロノアさんをオーブンレンジのある台所へと案内した。
「このオーブンレンジ、買われてからどのくらいになりますか?」
あちこち点検しながらロロノアさんが話しかけてきた。
「えーと、半年くらいかな」
「まだ買って間もないんですね」
「そうそう。こんなすぐ壊れることってよくあるんですか?」
「いや、あんまりないですが……ちなみに、壊れた時の様子を教えてもらってもいいですか?」
そう聞かれて、数日前のことを思い返す。
「いつもはレンジかトーストしか使わないんだけど、あの日はたしか、小籠包作ってみようと思って」
「これでそんな凝ったものも作れるんですね」
「そうなんですよ!でも、レシピ集見てもいまいちどのボタン押したらいいのか分からなくて、適当にあれこれ押してたら突然火花が散って動かなくなっちゃったんですよね」
「……は?」
まるで宇宙人を見るような目で、ロロノアさんがおれを見た。
「いやだから、ボタンあれこれ押してたら突然壊れたんですって」
「ちょっと待ってください、これまで他に家電壊れたりしてませんか?」
「おれつい最近一人暮らし始めたんですけど、それまではなぜか絶対に触るなって言われて家電はほとんど触らせてもらえなかったんですよね」
「……」
「一人暮らし始めてからはそういう訳にもいかないから自分でも使うようになったんですけど、そういえば炊飯器の調子が悪くてちゃんと炊けないことが結構あるんですよね。実家から持ってきたからもう寿命かな?洗濯機も洗えてなかったり脱水できてなかったりするし、つい先日買ったばかりの掃除機が壊れたんですよ」
「…………」
返事がないのでどうしたのかとロロノアさんの方を見ると、口をあんぐりと開けて驚愕の表情でおれを見ていた。しかも、小さな声で「ありえない」とかなんとかブツブツ呟いている。初対面の人間相手にちょっと失礼じゃないか?
「そんなに変ですかね」
ムッとして尋ねると、我に返ったらしいロロノアさんは慌てて顔を直し頭を下げた。
「いえ、すみません。……あの、一つお聞きするんですが、取扱説明書は読まれてますか?」
どうしてそんな当たり前のことを聞くのだろうか。
「読まないと使い方が分からないので、最初にちゃんと読みますよ。でもあれ、もっと分かりやすく書けないんですかね。読んでも全然使い方わからなくて」
するとなんとも形容し難い表情になったロロノアさんが、おれに向けてハッキリと言い放った。
「……ありえねェ」
聞き間違いじゃないはずだ。でも一応確認してみる。
「はい?今なんて……」
「いや、ありえねェよ!!取扱説明書なんて、誰が読んでもわかるように書いてあるだろ!むしろどこが分かんないんだよ!!」
突然豹変したロロノアさんに、今度はおれが口をあんぐり開けて驚愕の表情を浮かべる番だった。
「おい、この家にある家電全部見せろ」
ドスの効いた声で迫る、その剣幕に気圧されたおれは首振り人形みたいにコクコクと頷くと、ロロノアさんに家中の家電を見せて回った。
「全部うちのメーカーの家電じゃねェか……」
一通り家電を見た後、ロロノアさんはガックリと肩を落とした。
「や、同じメーカーのまとめて買うと安くしてくれるって言われてさ」
いつの間にかお互いタメ口になっている。
おれはいいとしても、向こうは社会人としてどうなんだ?そう思わなくもないけど、別に不快ではなかったのでこのままタメ口で会話を続けることにした。
「しかも、簡単にチェックしたがオーブンレンジ以外は別にどれも壊れちゃいねェ。てとこはつまり、おまえの使い方がおかしいってことだよ!!」
「はあっ!?ホントかよそれ」
「嘘はつかねェ。おまえ二十くらいか?その年で家電一つまともに使えないとかどうなんだよ」
心底呆れた、という風にため息をつかれ、いたたまれない。多少は機械オンチな自覚もあるため、痛いところを突かれて羞恥心が込み上げてきた。
「う、うるせェッ!ちょっと機械オンチなだけじゃねェか。別にあんたに迷惑かけないんだからべつにいいだろ!」
「ちょっと……?こんな使い方続けてればいずれすぐ壊れる。そしたらまたおれが修理に呼ばれるかもしれないだろ。機械の不具合ならまだしも、使い方が悪くて頻繁に壊されたらたまったもんじゃねェ」
正論すぎてグッと言葉に詰まる。
それでもなんで今日初めて会った相手にここまで言われないといけないのかと思ったら、悔しくて涙が滲んできた。
すると、半泣きになったおれに気付いたらしいロロノアさんがぎょっとした顔になる。
「言い過ぎた、悪かった」
そう言って頭を下げてきたので、やっぱり根はいい人なのかもしれない。
「いや、おれの使い方も問題あるんだろうし……でもわざとじゃないんだ、それは信じてくれ」
おれの言葉にロロノアさんはしばらく何事か考え込んでいたが、やがておもむろに口を開いた。
「なあ、使い方がわからないなら今度おれが教えにきてもいいか?このままだとまた家電壊れちまいそうだし、おまえもそれじゃ困るだろ」
「え、いいのか?そりゃありがたいけど、でも仕事忙しいだろうし、ここまで来るのも大変だろ?」
思ってもみない提案に乗りかけるが、冷静に考えると今日初めて会った他人に、仕事外でそこまでしてもらうのは気が引ける。理由をつけて丁寧に断ろうとしたら、
「実はおれの家ここから近いんだ。日中は仕事があるから、夜でもいいなら別におれは構わない」
と返ってきた。
そこまで言うなら、甘えてもいいんだろうか。よく知りもしない相手だけど、悪い人じゃなさそうだし、むしろ好感を抱くような何かがロロノアさんにはある。
「おれも仕事あるから夜の方が助かるし、そこまで言ってくれるなら頼んでもいい……ですか」
「おう、じゃあ決まりな」
そう言ってニカッと笑う顔に、なぜかほんのわずか胸がざわついた。
「よろしくお願いします」
おれも笑顔を返し、細かい予定について打ち合わせをしているうちに胸のざわめきは消え去っていた。
きっと気のせいだったのだろう、そう思うことにする。
こうして、数日後の夜にロロノアさんがうちに家電の使い方を教えに来てくれることになったのだった。
今日は、ロロノアさんがうちにやって来る。
仕事の後に来てくれると言っていたから、お世話になるお礼も兼ねて夜ご飯をご馳走したいと申し出たら二つ返事で了承してくれた。
自分一人の食事は適当に済ませてしまうことが多いが、人に食べてもらうとなると俄然気合が入る。おれはウキウキしながらどんなメニューにしようか考えた。
(あのガタイだと結構食いそうだけど、夜遅いしガッツリ揚げ物とかはやめた方がいいよなぁ)
そうだ。先日直してもらったばかりのオーブンレンジを使って、メインは焼売にしようか。使い方はある程度教えてもらったし今度は大丈夫なはず。失敗に終わった小籠包のリベンジだ。
我ながらいい思いつきだとニンマリと笑い、エプロンをつけると料理に取り掛かった。
とりあえず焼売の餡を作ってから、米を炊きスープと副菜三品を手際よく作り上げる。
時計を見上げると、針はロロノアさんが来る予定時刻の三十分前を指していた。
今から皮で包んで蒸しあげれば、出来たてホカホカの焼売を食べてもらえるはず。
そう踏んで、サンジは手際よく餡を皮で包んだ。全てをチューリップの花のようにきれいに包み終えると、クッキングペーパーを敷いたグリル皿に均等に並べてオーブンレンジに入れた。給水トレイにちゃんと水を満タンに入れてセットもした。それから、レシピ集と睨めっこしながらなんとかディスプレイに焼売のレシピを表示させると、えいや!っとスタートボタンを押した。
「ふ〜」
大袈裟にため息をついて、額の汗を拭い取る。まだまだ家電ビギナーであることに変わりはないけれど、レベルが一気に三くらい上がった気分だ。そんな達成感に満たされつつ洗い物を始めて少し経った頃、背後のオーブンレンジが「ピピピピピ」と音を立てた。
「なんだぁ? 出来あがった……にしては早すぎるよな」
洗い物を一旦中断して手を拭き、オーブンレンジを覗きに行く。
うん、ディスプレイが表示されてるから電源が落ちたりしたわけじゃなさそうだ。火花も散ってない。ん? 何か書いてあるぞ。なになに……水確認??
さっきちゃんと線まで水を入れたのにと不思議に思いながらも、一応給水タンクを取り出して確認する。
やっぱり水はたっぷり入っている。
おかしいなあと首を捻りながらも給水タンクを元に戻し、もう一度スタートボタンを押すと中途半端になっていた洗い物を再開した。
「ピピピピピ」
数分経った頃、また背後で不穏な音が鳴った。
「今度はなんだよ」
若干イライラしながら確認しにいくと、またもやディスプレイに「水確認」と表示されている。なんとなくいやーな予感がして給水タンクを取り出すと、やっぱり水はたっぷり入っていた。っていうか、さっきから減ってなくないか、この水。
せっかく上手く行ったと思ったのに突然目の前に立ちはだかった試練にプチパニックになりかけるが、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
こういう時は一からやり直せ、だ。
とりあえず水を入れ直してみようと給水タンクの水を捨て、パーツを取ってまたつけ直し、線まで水をしっかり入れる。それから再び給水タンクをセットし、祈るような気持ちでスタートボタンを押した。
数分後。
「ピピピピピ」
「ひぃ!」
まただ。そして、ディスプレイにはやっぱり「水確認」の表示。
オーブンレンジの扉を開けてみたら、スチーム料理なのに中には水滴なんて一つもついてなくて、グリル皿には生のままの焼売がお行儀よく並んでいた。恐る恐る取り出した給水タンクには、水がたっぷり入っている。
「ひぃぃぃ!」
今度こそサンジは完全にパニックに陥った。血走った目で時計をみると、約束の時間まであと十分しかない。
さあどうする。
このままオーブンレンジと格闘していたら絶対に間に合わないので、別の方法で蒸すしかない。しかし生憎蒸し器なんてものはこの家にない。
光の速さで頭を回転させた結果、サンジは冷蔵庫からキャベツを取り出してすごい勢いで太めの千切りにすると大きなフライパンに敷き詰め、その上に焼売を少し隙間を開けて並べて鍋の縁から水を回し入れ、蓋をして火にかけた。その間、約一分。最速記録更新だ。
これでなんとか間に合うはず。
ホッとしたらどっと疲れが出て、ずるずると床に座り込んだ。
「ロロノアさん、早く来ないかなぁ」
こないだの今日でたいへん言い出しにくいけれど、「水確認」の謎を解くためには絶対に家電マスター、ロロノアさんの力が必要だ。
*
——ピンポーン。
焼売が蒸しあがったのを確認して火を止めた時、ちょうど玄関のベルが鳴った。
「はーい」
小走りで玄関へ向かうと、鍵を開けてドアを開いた。秋のひやりとした夜気と共にのっそりとロロノアさんが入ってくる。
「こんばんは。邪魔するぞ」
そう言って顔を上げたロロノアさんが、ギョッと目を見開いた。
なんだろう。顔に何かついてんのかな。今日の格好は黒のスキニージーンズに薄いブルーのシャツ、それにパステルピンクのエプロンで至って普通だし。あ、もしかしてこのパステルピンクのエプロンがドスコイパンダの幻の限定色でプレミアついてんの知ってんのかな。手に入れるのすごい大変だったんだよな〜っていやいや今はそんなことよりも。
「こんばんは、今日はよろしくお願いします。……実は、既にちょっと困ったことになってて」
「なんだ、また何か壊れたのか」
我に返ったらしいロロノアさんが、今度は不吉なものでも見たような顔をしながら靴を脱いで綺麗に揃え、鞄からスリッパを出して履いた。
「玄関で立ち話もなんだし、飯食いながら話すよ。さ、こっちにどうぞ」
手を洗ってからダイニングにやって来たロロノアさんは、机の上に並べられた料理を見て軽く目を見張った。
「すげえな。これ全部おまえが作ったのか?」
「もちろん。遅い時間だからちょっと軽めにしたんだけど、物足りなかったらごめん」
「いや。十分だ」
「それならよかった。あ、どうぞ先に食べといて」
「おう。いただきます」
手をピシッと合わせて軽く頭を下げるロロノアさんを横目で見る。箸の使い方もすごくきれいだ。さっき玄関でも思ったけど、すごく礼儀正しい人だよなぁ。
好感度さらにアップ、なんて思いながら豆腐とザーサイのスープをつぎ、お茶を出して自分も席についた。
「ほんとはビールとかあった方がよかったかな」
「そんな気使わなくて大丈夫だ。今日は家電の使い方を教えに来たんだし。……それにしても、おまえの作ったメシ美味いな」
「ほんとに!?」
「ああ、店で出てきてもおかしくないくらい美味い」
「へへへ、実はおれレストランでコックしてんだ。店では怒られてばっかだから、美味いって言ってもらえてすげー嬉しい」
「へえ、おまえプロだったのか。どうりで美味いわけだ」
照れて笑うおれを、ロロノアさんは優しく目を細めて見つめた。
うわ、こんな顔もするんだ。なんつーか、この顔は、反則かも……。
なんとなく直視できなくてさりげなく目を逸らしつつ、おれは慌てて話題を変えた。
「あ、えと、その、プロといえば家電のプロのロロノアさんに相談したいことがあって」
「そういえばさっき何か言いかけてたな」
「すっごく言いにくいんだけど……実は、またオーブンレンジが壊れたかもしれなくて…………」
「はあっ!?」
ロロノアさんが素っ頓狂な声を上げた。
「ちょっと待て、こないだ直したばっかりだよな」
「そうなんだけど……」
言い淀むおれにロロノアさんは盛大なため息をついてしばらく頭を抱え込んでいたが、やがて諦めたように顔を上げた。
「ちなみに、壊れたってどんな感じなんだ?」
「えっと、スチームモードで焼売作ろうとしたら、ちゃんと水入れてんのに『水確認』って何度も出るんだ」
「なるほどな。故障の原因は大体予測がつくが、メシ食い終わったら一度分解して確認させてくれ」
「お願いします」
食事を済ませたあと、ロロノアさんは一度家に戻り仕事道具を持って戻ってくると、早速キッチンでオーブンレンジの分解を始めた。
家に道具を取りに帰るという余計な手間までかけさせてしまったことでしょんぼりとしていた気持ちは、重たいオーブンレンジを軽々と持ち上げ、迷いなくサクサクとネジを外して分解していく器用な手元を見ているうちに吹き飛んだ。
「すげえ、かっこいい」
こないだ修理してくれた時も思ったけれど、こんな複雑そうな作りのものをあっという間に分解してしまうプロの仕事に惚れ惚れする。自分が苦手な分野だから余計にそう思うのだろうか。
「別に、いつもやってることだからな」
苦笑いしながらも手を動かし続け、一つの部品を取り出すとロロノアさんはじっと見つめた。
「んー、やっぱこれだな。ほら、見てみろ」
差し出された部品を見てみると、空洞の部分に白いものがびっしり詰まっている。
「うわ、なんだこれ」
「水道水のミネラル成分が析出して詰まっちまったんだ。おまえ、スチームモード結構使うだろ」
「毎朝トースト焼く時にスチーム使ってる」
どうしても外はサクサク、中はふんわりモチモチのトーストが食べたくて、この機能に関してだけは死に物狂いで使い方を覚えたのだ。
「で、時々ちゃんと掃除してるか?」
「掃除?」
「その感じだと一回もしてねェな。スチーム使った時は二週に一回くらい掃除しないと詰まるんだ。掃除の仕方はあとで教えるとして……これはもう部品交換しないとどうしようもねェ」
「マジか〜。家電も調理器具と一緒で、ちゃんと手入れしなきゃダメなんだな」
「当たり前だろ」
「ごめんなさい、以後気をつけます……ちなみに修理ってどれくらいかかる?」
「今はそんなに混み合ってないから、申し込めば割とすぐ直せると思う。本来なら修理に全部で二万くらいかかるが、たぶん保証期間内だろうから出張費の四千円くらいで済むはずだ」
「それならよかった。実はおれ、こないだパソコン買ったばっかりであんま金なくて」
そう言って思い出した。
「そういえば、パソコンのことでもロロノアさんに聞きたいことがあったんだった」
「まさかそっちも壊れたっていうんじゃねェだろうな」
「それが、壊れたのかどうかもわからなくって」
「あーもうわかったわかった。とりあず分解したのを戻して、おまえにオーブンレンジの掃除の仕方を教えて、最後にパソコンな」
ロロノアさんがハイスピードで分解したオーブンレンジを組み立てていくのはやっぱりかっこよくて、おれはひたすらぽーっと眺めていた。
そのあと、おれの覚えが悪すぎて何度もロロノアさんを「うがあああ!」と叫ばせながらも、なんとか最低限のオーブンレンジのお手入れ方法を身につけた時にはもう十一時を回っていた。
「遅くなっちゃったし、パソコンはまた今度にしよう」
また今度? 友達でもないのにこれ以上まだ迷惑かける気なのかおれ。
自分で言っておいて、その図々しさに思わず恥いった。すぐに謝ろうと思ったのに、
「次いつ来れるかもわからないのに、それじゃあおまえが困るだろう」
いいから見せてみろ、と特に気にした風のないロロノアさんに促されてつい流されてしまった。
「あの、これなんだけど……」
買ったばかりのノートパソコンを取り出して開く。電源ボタンを押したが、画面はいつまで経っても真っ暗なままだ。
「買ってから最初の設定してる途中で——あ、ワイファイ設定?とかよくわかんなくてすごく時間かかってたんだけど——突然画面が真っ暗になって、うんともすんとも動かなくなっちゃったんだ」
だんだんと尻すぼみになりながら説明するおれをロロノアさんはジト目でしばらく眺めてから、ゆっくりと口を開いた。。
「すごく大事なことを一つ聞く。おまえ、コンセント繋いだか?」
ぱしぱしと目を瞬いて考える。
「コンセント? コンセント……あっ!」
思い当たった瞬間、思いきり目をかっ開いた。
まさか、まさか、そんな単純なことだったなんて……。
「もしかして、ただの電池切れかよ!」
「そうみたいだな」
がぼーん、と衝撃を受けている間にコンセントを繋いで電源ボタンを押したロロノアさんが笑いを含んで言った。
パソコンの画面は光って文字が浮かび上がっている。
オールオッケー、問題なしだ。
「そうか、充電しないと電池切れるよな。ははは、は……」
もはや乾いた笑いしか出てこない。
「買ってすぐはフル充電されてないからな。長時間使ったらそりゃ電池も切れる。まあでも、壊れてなくてよかったじゃないか」
小さい子にするみたいにぽんぽんと頭を叩いてくるロロノアさんに、おれは真っ赤になって歯を剥いた。
「こ、子ども扱いするなっ!」
「おーおーそりゃ悪かった」
口では謝りながらも肩を震わせて笑っている。
「ううう」
恨めしげな顔で睨みあげると、まだ少し肩を震わせながらもさっきみたいに優しく細めた目でおれを見た。
——あ、また。
なぜだか、胸がトクンと鳴る。ただでさえ赤い顔に、さらに血が上ったような気がした。
「しかしここまでポンコツだと、なんかほっとけねェな。結局今日はオーブンレンジの故障見て終わったようなもんだし、家中の家電ちゃんと使えるようになるまではおれが責任持って教えてやるよ」
「そりゃおれは助かるけど……ほんとにいいのか? 迷惑じゃない?」
「どうせ乗りかかった船だ。構わねェさ」
「ありがとう! それなら改めて、よろしくお願いします」
「おう、任せろ。日程決めるのに連絡先知ってた方がいいよな。おまえ、LINEやってるか?」
「うん。やってる」
「そしたら連絡先交換しようぜ」
「いいけど、おれ交換の仕方わかんない」
「……うん、まあそんな気がした。LINE開いたらちょっとスマホ貸してみ」
言われた通りにしてスマホを渡すと、ロロノアさんは何やらスマホを操作してからおれに戻した。
「ほら、これで連絡先交換完了。そんじゃあそろそろ帰るな」
「今日は色々とありがとう。また連絡するな」
「おう」
帰っていくロロノアさんを見送って少しすると、ピコンと通知音がした。スマホを取り出してみると、LINEの通知がきている。差出人は、ロロノア・ゾロ。
名前を見たらあの優しく目を細めた顔を思い出して、また胸がトクンと鳴った。
いやいや、トクンってなんだ。どうしちゃったんだよおれの心臓。
戸惑いながらも、「よろしく。今日のメシ、ほんとにうまかった」という絵文字一つないシンプルなメッセージに、「ありがとう」と「よろしく」のアヒルのキャラのスタンプを送るとすぐに既読がついた。
多分もう返事は来ない。ここでやり取りはいったん終わりだ。
そう思うのに画面を閉じる気になれず、おれはスマホを握りしめてたった一言のメッセージをバカみたいにボーッと眺めていた。