剣道の練習を終え、体育館の外の水道に頭を突っ込み汗を流す。
冷たい水でサッパリして顔を上げると、運動場で色々な部活が練習しているのが目に入った。どこを見るともなしにぼんやりと眺めていた視線が、ある一点で止まる。
その視線の先では陸上部が棒高跳びの練習をしており、誰かがちょうど跳躍をしたところだった。美しいフォームで跳び上がり、見事な金髪が光を弾いて眩しいくらいに輝く。越えるかと思いきや、落ちる時に体が触れてしまいバーが落ちてしまった。ぼすんとマットに沈んだそいつは、悔しいのかしばらく大の字になって空を見つめていたが、やがて立ち上がった。
その顔を見て、あいつか、と思う。金髪に特徴的な眉毛は、たしか同じ学年のサンジってやつだ。棒高跳びをやるなんて知らなかった。そもそも話したこともないけれど。
そいつ——サンジは、ポールを拾うと再びスタートラインへと戻って行く。
スタートラインにつくと、サンジは右手を胸に当て目を閉じて空を見上げた。精神統一しているのだろうか。まるで祈りを捧げているようなその姿に、さらに目を奪われる。
姿勢を戻したサンジは、軽く息をつくとポールを持ち上げた。
大きく呼吸をひとつしてから走り始める。
軽めのスピードから徐々にスピードを上げていき、地面にポールをつく。ポールが大きくしなり、まるで重力などないかのように白く細い体がふわりと宙に舞った。
ぐんぐんと空に向かって跳び上がっていくその姿は、まるでイルカのようだ。水飛沫を煌めかせながら、のびやかに、美しく跳躍するイルカ。
水面のかわりに空へ、水飛沫のかわりにパサリと舞う金糸を煌めかせながら、バーよりも十分高い位置で跳び越えると、跳んだ時と同様美しいフォームでマットへと吸い込まれていく。微動だにしないバーを見てサンジが空に向けて拳を突き上げた時、ゾロは自分が息を止めていたことにようやく気が付いた。
「すげェ……」
人が空に翔けていく姿がこんなに美しいものだとは知らなかった。
剣道以外で何かを美しいと思うなんて初めてだ。
誰が跳んでも美しいと思うのだろうか。それとも、こいつが特別なのだろうか。その答えはわからないけれど、ゾロはサンジが跳ぶところをまた見たいと思った。
空に翔る
