バレンタインSS

今日はバレンタインですね。
すっかり胸キュンエピソードとは無縁の年になってしまったので、今年も私のバレンタインは職場でお世話になってる方への義理(?)チョコと、旦那さんと子ども達にあげておしまいです。
ちなみに自分用にはカヌレ詰め合わせ買いました。
美味しいですよね、カヌレ。

そして、いつもこのサイトへ遊びに来てくださる方々へ、チョコの代わりにSSを用意しました。
短いですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

 


 

『お口直しはあなたのタバコで』

テンパリングしたチョコレートに作っておいたガナッシュをくぐらせては、バットに並べていく。
丸くツヤツヤと輝くチョコレート達。
そこからさらにココアパウダーや粉糖をまぶしたり、ホワイトチョコレートで模様をつけたり、細かく砕いたナッツを乗っけたりして仕上げていく。
全てにデコレーションを施し終え、まるで宝石箱の中身のように輝かしいチョコレートを眺めると、サンジは「よし」と満足そうに息をついた。

今日は2月14日。巷ではバレンタインデーと呼ばれ、レディ達が想いを寄せる男にチョコレートを渡して気持ちを伝える日だそうだが、ここサニー号ではコックであるサンジが愛情をたっぷり込めた手作りチョコレート菓子を振る舞う日となっている。
大食漢の男どもにはブラウニーやフォンダンショコラなど、食べ応えのあるものを。
甘いものが苦手なゾロには上等なウイスキーを使ったウイスキーボンボンを。
そして最後に、サンジが愛してやまないナミとロビンにトリュフチョコレートを作り終えたのだった。
レディ達にはきれいに箱に詰めてプレゼントしよう、箱にかけるリボンは何色にしようかと考えながら、取り出したタバコに火をつけて煙を深く吸い込んだところで、耳慣れた足音が聞こえた。

「甘ったりぃ」

ドアを開けるなり、部屋に充満するチョコレートの香りにゾロが顔を顰める。
「チョコレート作ってたからな。そりゃ甘いだろうよ」
外まで匂いは漏れていただろうし、だったら来なきゃいいのにと思うが、おおかた鍛錬後の飲み物をもらいに来たのだろう。
そう当たりをつけ、言われるよりも先にゾロ専用ドリンクを取りに冷蔵庫へと向かう。
「飲みモンくれ」
「わーってるよ。少し待っとけ」
グラスにたっぷりとドリンクを注いで振り返ると、先ほど作ったばかりのトリュフをゾロが一粒つまんで口に入れるところだった。
「あ、てめェ! それはナミさんとロビンちゃんにお渡しする大事なチョコなんだぞ!」
「やっぱり甘ェ」
悪びれもせずそんなことを言うと、冷蔵庫の前に立つサンジの方へとやってくる。

「クソマリモめ、勝手に食った挙げ句に文句言うんじゃねェよ! だいたいてめェのはこっち――」
ぎゃんぎゃん喚くサンジの口からタバコを抜き取ると、ゾロが唇を寄せてきた。
わずかに開いた歯の隙間からゾロの舌がぬるりと入り込む。
サンジの口内に余すことなく舌を這わせ、味わい尽くしたところでようやく舌を抜くと、呆然と立ち尽くすサンジの口にタバコを差し戻した。
それから、サンジの手に握られたままのドリンクを奪い取ると一気に飲み干して空のグラスをシンクに置き、いまだ呆然と立ち尽くすサンジの横を通り過ぎ、キッチンのドアへと手をかける。
「な、な……真っ昼間から何してくれてんだ! 誰か来たらどうすんだよ!!」
ようやく我に返ったサンジがその背中に向かって怒鳴ると、振り返ったゾロがニヤリと笑った。
「口直し。チョコは甘ェけど美味かった」
タバコの苦みがちょうどいい、と言い置いてゾロの姿がドアの向こうに消える。
「なんだよ、それ。反則だろ……」
後には真っ赤になって座り込んだサンジだけが残された。


 

(ちなみに、なんで甘いもの苦手なゾロがわざわざチョコをつまみ食いしたかって、明らかにナミとロビンのために特別に作られたそれがなんか面白くなかったようです。自分だって特別に作ってもらってるのにね。あとは、サンジ君の作ったものはたとえ甘いと分かっていてもつい口にしてみたくなる魅力にあふれているから、思わず手が伸びちゃったみたいです。)