ワンピースオンアイスとSS

今年初めて開催されたワンピースのアイスショーである、「ワンピースオンアイス」。
会場に観に行くことは叶いませんでしたが、有料で動画配信をしてくれるとのことでマルチアングルの視聴チケットを買い、ここのところ通勤中は常にワンピースオンアイスの動画を見ています。
毎度アングルを変え、もう3回は見たかな。

多くの人が感想を記してくださっているのでもう多くは語りませんが、これだけは言わせてください。

 

……もうね、最高でした!!!!

 

アラバスタ編という見応えたっぷりのお話がテーマになっているというのもありますし、何より、キャストさん達が本当に素晴らしくて。
表現力の塊であるスケーターさんがワンピースのキャラを演じると、こんなにも心に響くものが出来上がるのかと深く感動しました。
どのキャストさんもそれぞれに素晴らしかったのですが、その中でもこの3人の印象が強かったので少しだけ。

ルフィ
宇野昌磨くん、ルフィにしか見えない。憑依型の方なのでしょうか、表情も、伸び伸びとした体の動きも、自由奔放ながらもここぞという時には死ぬほどカッコいいところも、もはや完全にルフィでした。氷の上で走ったり転げたり飛び跳ねたり、あんな自由にうごけるものなんですね。試合で見る彼とは全然違う。技術と表現力の高さに終始唸りっぱなしでした。

サンジ君
恥ずかしながら、島田高志郎さんというスケーターを今回のショーで初めて知ったのですが、ルフィとはまた別次元で完璧なるサンジ君でした。登場した瞬間、漫画の中から抜け出してきたのかと思った。それくらいサンジ君だった。
すらりとした長身、少し猫背君の立ち姿、薄い肩、長い手足、小さく丸い頭。滑るとき、常に片手もしくは両手をポケットに入れているところとか、風になびく金糸、悪魔風脚のごとき高速スピン。フィナーレではメロリンまで!
高志郎サンジ、最高でした。演じてくれてありがとう。今やすっかりファンです。

クロコダイル
大人の男の色気が半端なかった……!
いかにも手触り良さそうなコート?マント?をはためかせながら、力強く荒々しい滑りを見せてくれるのがもうね、たまらなくてですね。葉巻とか、衣装とか、細かいところまで凝ってくださってるのも素晴らしい。
フィナーレではカルーとかにいたずらしかけてるのがお茶目で可愛くて……ギャップ!!!
私がギャップに弱い女って知ってのことですか?反則ですよ??
原作でもクロコダイルは憎めなくてわりと好きなんだけど、今回のアイスショーでより一層好きになりました。
サンジ君もそうだけど、クロコダイルも砂になってサラサラ~と流動的な動きをするキャラなので、アイススケートの相性がすごくいいですね。ルフィも滑ることで腕が伸びているような気がしたり。新たな発見でした。

他にもゾロの三刀流見せてくれるなんて!とか、ボンちゃん最高!とか色々ありますが、長くなりそうなのでこの辺でやめておきます。
来年もまた開催されることがあれば、今度こそ会場に行って生で見てみたいな。

 

それと、今回アイスショーを見た感動と興奮が突き抜けた結果、よくわからんお話を書いてしまったのでここにひっそり載せておきます。
アイスショーを見た私の気持ちは、これを読んでもらった方がよくわかるかもしれない。
もしうっかり続くことがあれば、作品ページにも載せようかなー。

 


「氷上の君へ、愛を込めて」
 現パロ、大学生ゾロ×スケーターサンジ
(Twitter(X)に載せたものを加筆修正しています)

 

 ——氷上のプリンス。

 人は皆、彼をそう呼ぶらしい。
 もう何度目かわからない動画を食い入るように見ながら、最初にその呼び名を思いついた奴は天才だと思った。スラリとした長身に長い手足、キラキラ輝く金の髪、アイスブルーの瞳に甘いマスク。見た目だけでも十分プリンスと呼ぶに相応しいが、氷上でのうっとりするほどに優雅な滑り、気高く美しい立ち姿は、思わずその場にひれ伏してしまいそうになるほどの高貴なオーラを放っている。
「あー、何度見てもたまんねェ」
 画面の中で高速スピンをキメるプリンス——名をサンジと言う——を見つめて、おれはうっとりとため息を漏らした。

 これまで、フィギュアスケートにはあまり興味がなかった。オリンピックの時などにテレビで放送していればなんとなく眺める、その程度。有名なメダリストなら顔と名前くらいはわかるが、それ以外の選手に関する知識は皆無だった。そんなだから、今や最推しであるサンジのことも何一つ知らなかった。
 おれがサンジを知ったのは、アイスショーがきっかけだ。
 子供の頃から大好きでずっと読んでいる漫画(今も連載中だ)のアイスショーが初めて開催されると知ったおれは、地元開催だったこともあって行ってみようかと考えた。アイスショーなるものに行くのももちろん初めてで、まずチケットの値段の高さに驚愕した。なんと三万円! おれの一日のバイト代よりもうんと高い。もちろんこれは一番いい席の値段だが、一番安い席でも一万円もする。あまりの高額っぷりに「やっぱり行くのやめようか……」と思いかけたが、原作ファンとして見ておきたい気持ちが勝ち、一番安いスタンド席を取ることにした。まだ学生であるおれの懐には大ダメージだったが、その分バイトを入れれば問題ない。
 せっかく行くからにはと公式から次々と発表される情報を見ていると、主人公を演じるのが超有名なメダリストであることはわかった。けれど、他のキャラの配役は正直知らない顔と名前ばかり。ふーん、と眺めるだけで記憶には残らなかった。それよりも、ショーでやるのが原作の中でも三本指に入るくらいに好きな話だったので、どんな風に仕上がるのか、そっちの方が楽しみで仕方なかった。
 あの時、なんでサンジのことが目に入らなかったのか、今となっては本気で謎だ。あんなに目を引く存在に気づかないはずはないのに。過去に戻れるのならば「バカ野郎!」と自分をぶん殴ってやりたい。けれどそんなことは不可能だし、今はすっかりサンジのファンとなっているのだから結果オーライだ。

 そして迎えたショー当日。
 漫画の世界からポンと飛び出して来たかのような、あまりにハマり役のサンジの滑りに、おれは一目で魅了されてしまった。
 ショー自体ももちろん素晴らしくて、あんなに高いと思っていた一万円すら「こんな安い値段で見させてもらっていいものか」と思ったくらいだったが、中でもサンジの素晴らしさは群を抜いていた。
 ショーの最中も気づけばサンジのことを目で追っていて、フィナーレを迎える頃にはすっかりファンになってしまっていた。

 ファンになってからのおれの行動力には目を見張るものがあった。
 まず、フィギュアスケートについての知識を徹底的に詰め込んだ。今のおれならフィギュアスケートの実況中継を見ても、解説者の言ってることが完璧に理解できる。なんなら、おれの方が上手く解説できるかもしれない。
 それから、Youtubeで見ることのできるサンジのこれまでの試合の映像を全て見た。見れば見るほどにおれはサンジの魅力の虜になり、もはやサンジはおれの生きる糧と同義だった。サンジを知らずにいたここ数年が本当に悔やまれる。なぜおれはあんなムダな時間を過ごしてきてしまったのだろうか……。
 もちろん、ファンクラブにも即入会した。正確に言えば、アイススケート全体のファンクラブだ。サンジ個人の公式ファンクラブがないので致し方ない。けれど、会員限定席の販売があったり、ファンミーティングに参加できるというメリットがあるので、常に寂しいお財布からお金を出してでも入会するだけの価値は十二分にあった。
 あとは、これまでに面倒くさいからと一切やったことのなかったSNSのアカウントを片っ端から作った。インスタ、Twitter、TikTok。サンジのアカウントがあれば即座にフォローしたし、サンジがやっていないSNSは情報収集と誰かが好意であげてくれる動画目当てに日々チェックを怠らなかった。SNSかから得られる情報やお宝映像だけでもわざわざアカウントを作った価値があるというものだが、何よりも、サンジの投稿にコメントができるというのは、何ものにも代え難い魅力だった。好きです、応援してます、と間接的にでも伝えられるまたとないチャンスだ。自分の存在を認知してほしいというよりは少しでもサンジの力になればという一心で、サンジのファンになったその日から、おれはサンジがSNSに投稿するたびに必ずコメントをするようになった。
 もちろん、個別に返信が来ることなどない。そもそも、大好きな漫画のアイスショーで演じたキャラ同様に女に甘く男には塩対応のサンジは、女どもからのコメントには「レディ達〜! いつも愛あるコメント本当にありがとう。全部大切に読ませてもらってるよ! おれからの愛も届け、メロリ〜ン♡」なんて返信をするくせに、男からのコメントについては無視がデフォルトだ。けれど時々、本当に稀に、「野郎どもからのコメントなんて嬉しかねーよ! でも……サンキュ」なんて書き込みがあるものだからタチが悪い。そんなコメントがあった日にはおれは一日悶絶して過ごし(比喩ではなく、実際ベッドでのたうち回って過ごした)、サンジという沼により一層深くはまり込んでいくのだった。
 おれの応援の効果、というわけではなくサンジ自身の努力の結果、サンジはメキメキと頭角を現し、気づけば国を代表するスケータへと成長を遂げていた。ファンの数は桁違いに増え、SNSのフォロワー数もうなぎ上り。サンジの投稿に対するコメントの数もとんでもない数になり、おれのコメントなどあっという間に埋もれてしまうようになっていた。それでもおれは、これまで通りサンジの投稿には欠かさずコメントをし、行ける範囲で試合やアイスショーを見に行き、なんならファンレターも送り、サンジのことを応援し続けた。
 たとえ遠い存在になってしまっても、おれにとってサンジが魅力的かつ最推しであることに変わりはない。むしろ、多くの人の注目を浴びてより一層輝きを増すサンジのことを、おれはまるで自分のことのように誇らしく思うのだった。

 そんなある日、おれに天からのプレゼントがやってきた。
 なんと、スケーター出演のファンミーティングに参加できることになったのだ。しかも運のいいことに、そのファンミーティングにサンジが出演するらしい! 神には祈らないのが信条のおれだが、この時ばかりは祈ってやってもいいと真剣に思った。
 バイトを詰め込んで得た軍資金で、友達のウソップに相談に乗ってもらってその日のための一張羅を揃え、洒落た美容室で髪も切ってもらった。家を出る前に風呂に入って念入りに体を洗い、歯磨きの後にマウスウォッシュもした。ファンレターも書いたし、悩みに悩んだ末にプレゼントとして花束も準備した。デルフィニウムとブルースターの間にカスミソウを散りばめた、淡いブルーの花束。サンジの目の色に似せて選んだのがおれなりのこだわりポイントだ。
 そうして出来うる限りの最大のお洒落と準備をしたおれは、緊張と期待で胸が張り裂けそうになりながらも、ファンミーティングのある会場へと向かったのだった。